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SF・ファンタジー・ホラー

LOTUS extra 〜Godfather Death〜 <1>

   

「やあね、そんなに怖がらなくたっていいのよ。アタシ、天使よ」
「天使さま? 本当に、本物の天使さま?」
「そうよ、驚いたでしょ!」

LOTUS』 ―桜井×野々宮姉弟―
≪「LOTUS」 番外編≫

Illustration:Dite

 

 かわいいぼうや、わたしの弟。
 さあ、あなたの名付け親さんを探しに行きましょう。

 そこは、北のほうにある、小さな町でした。
 冬は長く、土も貧しい、とても厳しい土地柄です。
 人々は額に汗して懸命に働きましたが、畑の作物は豊かには実らず、いつしか、遠い南の町へと出稼ぎに行く者のほうが多くなりました。この国で最も大きい南の町には、たくさんの町工場や大小の工房があり、どこも人手不足だったからです。
「寒い……………………」
 街角に立つ女の子は、ふと足を止め、重苦しく垂れ込めた曇り空を見上げました。空気は凍てつき、今にも雪が降り出しそうです。艶やかな黒髪を肩のあたりで切り揃えた、十を少し過ぎたくらいの賢そうな女の子は、腕に抱いた赤ちゃんを見つめ、小声でささやきかけました。
「ぼうやのママ、おそいのね。市場はすぐそこなのに……どこまでお買い物に行ったのでしょう。お買い物をすませたら、すぐにお迎えに来る約束だったのに」
 あちこちが擦り切れたぼろ布に巻かれ、女の子の腕に抱かれた赤ちゃんは、寒さと空腹で泣く力を失い、ぐったりとしていました。その様子を見て、女の子は嫌な予感に眉をひそめました。
 もしかしたら、この赤ちゃんの母親は、もう二度と戻ってこないのではないでしょうか。畑仕事を諦めた女の子の両親も、「南の町へ出稼ぎに行ってくるからね」と言い残したまま、もう一年も帰って来ません。クリスマスになっても手紙すら届かず、女の子は、母親から習い覚えた洗濯の仕事で、どうにか毎日のパンを買っているのでした。
「おお、寒い。おお、困った。さあ、どうしましょうね」
 昼過ぎからずっと赤ちゃんを抱いて立っていたせいで、女の子はひどく疲れていました。陽はすでに西の空へと沈み、このままでは夜になってしまいます。女の子は、自分と同じ黒髪の、可愛らしい赤ちゃんの顔を覗き込みました。寒いのか、それともおなかが空いているのか、赤ちゃんが時折、かぼそい声で泣きます。それを懸命にあやしながら、女の子は「ぼうやのママ、一体、どうしちゃったんでしょうね」と話し掛けました。
 そうしているうちに、宵闇に包まれはじめた空から、ちらちらと雪が降り出しました。女の子は小さなため息をつくと、時折、思い出したように目を開けて身じろぎする赤ちゃんの頬を、そっとつついて言いました。
「あのね、これは雪っていうの。冷たいでしょう。ねえ、ぼうや、今夜はわたしのおうちにいらっしゃいな。わたしのおうち、ほら、すぐそこなのよ。せまいけど、お外よりはあったかいわ。ね?」
 女の子の髪に、赤ちゃんの頬に、雪が降りかかります。
 女の子は赤ちゃんを抱いたまま石畳にしゃがみ込むと、薄汚れた前掛けのポケットを探りました。そうして銅貨が3枚あるのを見ると、これでカップに一杯のミルクと角砂糖が買えるだろうかと考えました。
「おさとう、一個だけなら買えるわね。一個だけでは、売ってくれないかもしれないけれど」
 角砂糖を入れてゆっくり温めた甘いミルクは、女の子の、何よりの好物でした。女の子は今夜のパンをあっさり諦めると、赤ちゃんのために、一杯のミルクと角砂糖を買うことに決めました。

 

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