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SF・ファンタジー・ホラー

LOTUS extra 〜Godfather Death〜 <2>

   

「あらまあ、タイくらい結べなくてどうするの。ほら、髪もちゃんとして」
「別にイイだろ、いつも通りで。お貴族サマでもねーのに、こんな大層な服、似合うワケねー」
「いいえ、ちゃんと着れば、ちゃんと似合います」
 着恥ずかしさも手伝っているのか、仕立ての良い服に身を包んだアルベロが、初めて結んだタイを直してもらいながら「たかが誕生祝いで」と口をとがらせます。フィオーレはクスクスと笑いながら弟の身支度を手伝ってやると、風邪ひとつ引かずに立派に成長した弟を、誇らしく見つめました。
「大きな怪我も病気もなく、無事に今日の日を迎えられて、本当に良かったわ。アルちゃん、16歳のお誕生日おめでとう」
「ん」
 後見人が折々の援助はしてくれるものの、親のない姉弟がたった二人だけで生きていくのは、楽なことではありませんでした。その証拠に、学校というものに通ったのはアルベロだけで、フィオーレは家庭教師のふりをした死神から読み書きを習うまで、自分の名前の綴りさえ知らなかったのです。
 この街で学校に通えるのは、それなりの暮らしができる家でも、兄弟のうちの一人か二人だけでした。幼い頃から学校に憧れていたフィオーレは、死神が置いていく銀貨をすべて小箱にしまうと、普段の生活は洗濯娘の仕事で支え、なんとか学費を工面して、愛する弟を隣町の学校へと通わせたのでした。
 無論、その厚意を当然だと思うようなアルベロではありません。本当は一番上の学校まで行って優秀な医者になり、難病に侵されているらしい恩師を救うのが、アルベロの夢でした。病身を押して教壇に立つ若い教師を、アルベロはいつも気に掛けていたのです。
 けれど、姉のフィオーレには、もう十分すぎるほどの苦労をかけてきたのです。雨の日は言うまでもなく、雪の日でさえも運河に洗濯に出掛け、その優しい手にいつも水仕事のあかぎれを作り、どこかに嫁ぐこともなく、今日まで面倒を見てくれた姉に、これ以上の迷惑はかけられません。16になった以上、今度は自分が働いて楽をさせてやる番だと思い、去年のうちから、後見人に働き口の相談を持ち掛けていたのでした。
「なあ、姉貴」
「いけません。お祝いのケーキは、先生がいらっしゃってからよ」
「そうじゃねーよ。オレ、前から聞きたいと」
 ふと思い立ったアルベロが、長年の疑問を口にしようとしたときです。入口の扉を軽く叩く音が聞こえ、姉弟の後見人である死神が、足音もなく部屋に入り込んで来ました。
「やあ、アルくん。何が聞きたいって?」
「センセ」
 アルベロもまた、死神を「先生」と呼んでいました。
 正確に言えば、アルベロは自分が姉とまったく血の繋がりのない孤児であることも、目の前にいる若い紳士が、実は死神であることも知りませんでした。「ヴィスキオ」と名乗る資産家にして篤志家の若い紳士が、純粋な好意で、自分たち姉弟を支援してくれているのだと思っていたのです。
 その考えを改めたのは、二階の東側の部屋に住んでいる若者が所帯を持ち、気立ての良さそうな若い婦人と共に暮らすようになってからでした。しかと確かめたことはないのですが、もしかしたら、この若い紳士は姉と将来の約束をしているのでしょうか。それとも姉にその条件を無理に飲ませて、その代償として、これまで援助をしてくれたのでしょうか。
 誕生会が始まる前に、実際のところを姉の口から直接聞きたかったのですが――あいにくと、ヴィスキオの来訪のほうが早かったのでした。

 

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