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ノンジャンル

れいな in X’mas

   

ふわふわと雪が舞う新宿の街。
少女は涙を拭きながら雑踏を歩いていた。
なによ、男なんて皆信じられない──。
彼女はふと、道端で色紙を売っている青年の前で足を留める。
この人だって、心の底ではいやらしいことを考えてるんだわ。
そうだ、困らせてやれ──。
少女は彼に近づいていった。

聖なる日の街角で起こった、小さな物語。

 

 少女は空を見上げていた。

 ふわふわと綿菓子のような雪が舞い降りてくる。
 それは彼女の髪に、肩に、瞼に落ちて、短い命を惜しむように一瞬留まっては、溶けて消えるのだった。

 まばたきをすると、瞼で溶けた儚い結晶が、涙のように目の前を滴り落ちる。
 それを指で拭っても、まだ目の前はぼんやりしていた。
 自分が泣いていることに気付いて、少女は泣き笑いしながら目元を拭いつづけた。

 立ち止まって空を見上げていたのは、舗道の脇だ。
 彼女は周りを見回し、顔を赤らめながら歩き出す。

 彼女が恥ずかしがるほど、誰も他人のことを気にしていなかった。
 途切れのない雑踏の住人たちは、誰も彼もが自分と愛しい人だけの甘い時間や贈物のことで、頭がいっぱいだ。
 クリスマス前の新宿。週末の午後。街が一年でいちばん華やぐ季節。

 顔を歪め、口元を押さえながら、少女は幸福そうな人たちの間を縫うように歩く。
 まるで、泣いている自分に腹を立てているみたいに。

 大通りへ出る直前のビルの角で止まり、雑踏から隠れるように柱にもたれると、彼女はさめざめと泣いた。
 どうしてこんなに……と思うほど、涙が後から後からあふれてくる。

 この季節のせいだ、と彼女は思った。かつて隣にいた、優しかった恋人との思い出が、否応なしに甦ってくる。
 あんなに好きだったのに。別れてからもうずいぶん経つのに。華やいだ街に楽しかった日々が重なってしまう。

 別れたのは自分のほうからだ。社会人の彼が、社会の常識では許されない仕事をしていると知ったからだ。
 彼女は責め、泣き、辞めてくれるように懇願した。そしてそれが叶わぬと知ると、離れていった。
 
 彼を愛していると思っていた。彼がやることは、どんなことでも受けれようと思っていた。
 しかし彼がしていたことは……女衒(ぜげん)だった。顧客の男に女を斡旋する商売。
 その事実を知ったとき、少女は自分も売られるのかと思った。
 それはないと分かったが、彼が女性をそんなふうに扱っているのが許せなかった。
 いつも優しく、喧嘩どころか自分に声を荒げることもなかった彼が、女性に酷いことをしていたなんて──。

 別れた後も、あのときのショックはいまだに尾を引いている。新しい彼を作ろうとも思わなかった。
 男というものが信じられなくなったのだ。
 彼だけでなく、女を欲望の対象とする男そのものが。

 けがらわしい、と思った。
 男の性欲が。
 男からそんな目で見られることが。
 男って、女性をそんなふうにしか見てないの? そう思うと、世の中の男すべてが薄汚く見えてくる。
 父親も、学校の教師も、街を歩いているあのサラリーマンたちも、すべて。

 仕方のないことだったかもしれない。
 まだ18歳にもなっていない少女が、男のいちばん汚い部分を、自分の彼氏に見いだしてしまったのだから。

 もう少し経てば、男というものが分かって、適当にあしらうという芸当ができたかもしれない。
 しかしいまの彼女にとって、男とは受け入れるか拒否するか、どちらでしかなかった。
 そしてどうしても、受け入れるという選択ができなかったのである。

 

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