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ラブストーリー

Birth again

   

見えてはいけないものが見える少女が出会ったのは、聞こえない筈のものが聴こえる青年だった。
「同じ」と気付かぬまま惹かれあう二人だが、少女は青年の命の期限を見てしまい……

 

 
 いつもの屋上への扉を開けた時。
 そこに、天使が居るのかと思った。

 綺麗な金の髪をしたその人は、天を仰いで歌っていた。
 柔らかく、澄んだ声で。
 それが天使ではなく人だと気付いたのは、彼に寄り添うように「見えてはいけないもの」が見えてしまったから、だった。
「ダメっ!!」
 気付いた瞬間、叫んでいた。叫んで、駆け寄って、びっくりしたみたいに振り向いた彼の袖を掴む。
「飛び降りなんてダメだよっ、死んじゃったらどうにもならないんだよ!?」
「は……?」
 怪訝そうに顔を歪めた彼は、次の瞬間吹き出した。声を上げて笑われて、頭に血が上る。もしかして勘違い、とか?
「俺、そんな深刻な表情してた?」
 くくって、低く笑いの余韻を残した声音に、ますます頬が熱くなった。
「ご、めん、なさい」
 うぅ。恥ずかしすぎて下を向いたら、ぽんって頭を撫でられた。
「いや、いんだけど。紛らわしい顔してた俺が悪かったし」
 そうじゃない。私がそんな頓狂な勘違いをしたのは、……アレが見えたから。
「あの……本当に、飛び降りないですか?」
「うん?あー俺ね、まだ生きてやりたい事あるから。まだ死ねないし、死なないよ」
 言われて、少し安心した。その笑顔は今にも死にたがっている人のものには見えなかったから。
「えと、やりたい事って何ですか?」
「とりあえず日本一かな。それから世界に出て、トップを目指す」
 世界一、って事?何か、すごくスケールの大きい話だ……
「スポーツ選手か何かなんですか?」
 とりあえず想像の範囲内で訊いてみたら、彼は落ちそうなくらい目を見開いて、ずっこけた。
「いや、自惚れはだめだっつー事だよね、うん。おかげで俺は謙虚さを学びました」
「そんな、えっと、私が世の中の事を知らなすぎるだけなので」
 そう、私の家にはテレビもパソコンもオーディオも無い。もちろん携帯電話も持っていない。ニュースは新聞で事足りるし、海外に赴任している両親との連絡も固定電話で十分だから。そもそも私の居る時間にはかけて来ないし。
 そんな私の説明を、彼は呆気にとられたような表情で聞いていた。
「まーじーでっ。今時珍しいっつか貴重な子だねぇ。――――皆、誰かと繋がってないと不安で、他の誰かと同じ事を知っていたくて、そういうツールを持つものなのに。君は、怖くないの?」
 不意に、真面目な表情で問われて。でも、私は。
「誰かと繋がる事が、怖いんです」
 こんな事言うつもりじゃなかったのに。天使と見紛うくらい綺麗なこの人は、きっと私の口を軽くする魔法の力を持っているに違いない。
 誰とも繋がらなければアレが見える事も無いし、人と違う自分を意識せずに済む。だから、私は全てを遮断したんだ。
「そっか、強いね。俺は無理だなー。誰かと繋がってるって、やっぱり安心感だから」
 はーって、息を吐いたその人は、すごく暖かい表情で笑った。
「えーと君……名前、なんての?俺は真哉」
「……未空、です……」
「未空ちゃん、ね。ほら、これで俺達繋がったよ。名前を知るのは第一歩、ってね」
 えぇっ、それは……そんな、簡単に!?
「あっ、未空ちゃんがどうしようもなく俺の事が嫌いで二度と会いたくないならしょうがないけど」
「そっ、んな事は……っ」
 って、何故か私は突き放す事が出来なくて。こんなの辛いだけなのに。
 それなのに、彼はすごく嬉しそうに笑うから、今更取り消しなんてできないのだった。……ほんとにいいのかな、こんなに簡単で。

 

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