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SF・ファンタジー・ホラー

妖豚場の真珠 バロック <検印>

   

「明日の夕食は、さやの好きなものにしましょう」
「えっ」
「どうしたの、そんなに驚いた顔をして」

妖豚場の真珠 バロック ~検印~

Illustration:Dite

 

 心優しい羊飼い、あなたはわたしの骨を吹く
 兄はわたしを殴って殺し、橋の下に埋めました

【歌う骨】

「そりゃあ、ねえ。お姉さまが心を込めてそう言い続けたら」
 新しく買ってもらった薔薇柄のクラシカルなドレスは、髪をしっかり巻いて、メイクを甘めに仕上げると、予想以上にあたしに良く似合った。お姉さまの選ぶ服や靴には、やっぱり、間違いなんてない。どれもこれも、あつらえたみたいに、あたしに良く似合う。
「なんだって『美味しそう』になるでしょうよ。肉なら柔らかく、果物なら甘く。手間も費用もゼンゼン惜しまないんだから」
 あたしとお姉さまが住むマンションの地階は、住人専用の駐車場になっている。あたしはお姉さまのクルマがやってくるのを待ちながら、マンションのエントランスに飾られた大きな姿見の前で、身だしなみのチェックをした。
 昨夜のお姉さまの言葉が、頭の隅にこびりついて離れない。
 忘れよう、聞かなかったことにしようと思うほど、どこかに笑いを含んでいたお姉さまの言葉が蘇る。お姉さまがしつこいくらいに抱いてくれなかったら、昨夜はきっと、眠ることさえできなかっただろう。
 やっぱり、昨日のあのセリフは「宣告」なんだと思う。
 いつもの冗談とは似ても似つかない、嫌な雰囲気があったから。
「あたしも、ついに年貢の納めどきかな」
 声に出してつぶやいてみて、心では納得しているんだと感じる。
 すごくイヤだし、アタマがおかしくなりそうなくらい怖いけど、でもあたしの心は納得している。というより、諦めている。いつまでもいつまでも、永遠に永久に、お姉さまの愛玩人形でいられるだなんて――そんな都合のいいこと、最初から思っていなかったから。
「お姉さま、あたしに飽きちゃったのかなぁ」
 それとも、すみれおばさまのレストランでのイタズラが、決定打になったのだろうか。お姉さまたちの余興に水を差したのなんて、初めてのことだったし。
「あんなおちびちゃんのことなんか、ほっとけば良かった」
 あの日の自分の行動が、今もイマイチ理解できない。
 お姉さまたちに捕まったら、もうその時点でゲームオーバー。
 どうせ助からないんだし、うっかり手を貸したりしようものなら、こっちの立場が危なくなっちゃう。何より、あのおちびちゃんの場合は最初からエレーヌおばさまのお気に入り。あたしごときにどうにかできるわけ、なかったのに。
「そうよ。人のことより、自分の心配をしなくちゃ。まあ、いくらなんでも、今日ってことはないだろうけど」
 今日のお出掛けは、行き先を知らされていなかった。
 これは別に、珍しいことじゃない。モデルの仕事があるときは前もって教えてくれるから、仕事じゃなくてプライベートなお出かけなんだってことはわかる。わざわざ服を新調してくれたんだから、ちょっと気の張る場所にでも行くのかもしれない。
 そんなことを考えているうちに、地下の駐車場から出てきたお姉さまのクルマが近づいてきた。服でも何でも「白い物」がお好きなお姉さまの愛車は、艶やかなサテンホワイトのパール仕上げ。高い外車をあちこち好きなようにカスタムしたとかで、お姉さまには意外とそういう、男っぽい趣味があった。
「お待たせ。さあ、乗って」
「はあい」
 あたしの定位置は、もちろん助手席。
 スカートにヘンなしわがつかないように、気をつけながらクルマに乗り込む。すると、お仕事用のきちんとしたスーツに身を包んだお姉さまが、あたしを見て「さやもメイクが上手くなったわね」と微笑んだ。

 

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