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SF・ファンタジー・ホラー

妖豚場の真珠 バロック <屠殺>

   

「さあ、つけてあげるわ。すみれがデザインしてくれた、パールのラリエットよ。わたしが持っているものと、ほとんど同じなの」
「わあ、お姉さまとお揃い?」
「そうよ。お揃いを持つのは初めてね」

妖豚場の真珠 バロック ~屠殺~

Illustration:Dite

 

 子供のなきがらは墓に埋められましたが、その子供の腕が、土の下から出てくるのです。いくら押し込んでも出てくるため、母親は鞭で子供の腕をぴしゃりと叩きました。

【わがままな子供】

 あたしが訪ねたとき、おじいちゃまはちょうど、来客中だった。でもすぐに終わるからと、お手伝いさんに案内されて奥のアトリエへ行くと、そこに意外な先客がいた。
 すみれおばさまがまるで自分の娘のようにかわいがっている、繭っていう若いパティシエールと、エレーヌおばさまのお宅で暮らすことになったおちびちゃん。おちびちゃんはいつのまにか、エレーヌおばさまの「お孫さん」っていうことになっていた。
 おちびちゃん自身もそう思っているみたいだから、別に何も、何ひとつ問題はない。仕立ての良い、有名私立小学校の制服みたいなキッズフォーマルも、今のおちびちゃんには良く似合っていた。
「あら、繭さんたちもいらしていたの」
「お久しぶりです、さやかさん」
「えっと……こんにちは」
 ロッキングチェアを盛大に揺らして遊んでいたおちびちゃんが、イスから飛び降りてあたしにぺこりと頭を下げる。なんとなく怯えているような目つきであたしを見ているのが、ちょっぴり気に食わない。そのくせ繭のほうにはべったりで、なおさら小憎らしかった。
「ごきげんよう、おふたりとも。ここで、繭さんやおちびちゃんにお会いするとは思わなかったわ。もしかして繭さんたちも、おじいちゃまに描いて頂くの?」
「ちがうよ。ぼく、おじいちゃまに勉強を教わりにきたんだ。算数とか理科とか、フランス語とか油絵とか、ほかにもいろいろ教えてもらってるんだよ」
「そーお。繭さんは?」
「わたしは、頼まれ物のお届けに。今日はさやかさんやリオンくんにもお会いできるとうかがいましたので、お土産も焼いてきたんです。よろしければ、あとでおやつに召し上がって下さい」
 繭の差し出すペーパーバッグを受け取れば、なかにはアントルメ用の白い正方形の箱と、リボンつきのピンク色の小袋が入っていた。あたしは無邪気を装ってアントルメの箱を取り出し、このあいだの不作法を繰り返すように、無遠慮に開けてみた。
「わあ、洋梨のタルト! これ、お姉さまのお好きなお菓子なの」
「そうですか、良かった」
「ありがとう、繭さん。今夜、お姉さまとお夜食に頂くわね。ね、こっちの包みは?」
「最近、お店で評判の良かった、リンゴジャムをのせたクッキーです。いま、お茶請けにも出して頂きました」
 繭がそう言うと、おちびちゃんが奥のテーブルに飛んで行って、クッキーのお皿を持って来てあたしに突き出した。美味しいから食べてみろ、ということらしい。仕方なくひとつつまんで、若くてもプロが作るんだからマズイわけがなくて、フツーに美味しかった。
「このジャム、繭さんの手作り? ん、美味しーい」
「ありがとうございます」
 あたしがにっこりしてやれば、つられるようにして繭もにっこり。なんの含みもない、素直な笑み。あたしの実年齢と同じくらいだとすると、ちょっと幼いような気もする。というより、幼い面が多く出るような躾をされているのだろう。すみれおばさまは、大人しくて従順な子がお好きみたいだから。
 あたしは繭の手土産を古びたローテーブルに置いて、生地の傷みさえも模様みたいなソファーに座って繭を招いた。繭は素直にあたしの隣に座り、おちびちゃんは勉強にもロッキングチェアにも飽きたのか、繭のクッキーを頬張りながら、今度はアトリエの隣にある立派なサンルームに入り込んでいた。

 

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