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SF・ファンタジー・ホラー

妖食フルコース レヴェイヨン <プース・カフェ>

   

「まあ…………!」
「おお、さすがは、ゆりこですね」
「フフッ。溶液もオリジナルなのよ、苦労したわ」
「こんなこともできるのね。とても素敵よ、感心したわ」

妖食フルコース レヴェイヨン
 ~第4章:プース・カフェ~

Illustration:Dite

 

◆プース・カフェ◆
《お好みの食後酒と小さなショコラ》
 ~パヴェ・ド・ショコラ・クリュ~

 晩餐は男性と。
 夜食は女性と。

(ジョセフ・デトパーズ)

 オードブルの一番人気は、おじさまの新ルセットをわたしが調理した「フォワグラのフラン」だった。「フラン」は円盤状の鋳型から名前がついたアントルメの一種で、平たい輪型に入れたカスタード系のゆるい生地を、焼いたり蒸したりしたものから始まったらしい。今では甘いアントルメに限らず、お惣菜系のアントレになることも多かった。
「美味しい……おじさま、このフラン、すごく美味しいです」
「もうチョイ、塩を効かせたほうが良かったか」
「わたしはこれくらいの、優しい塩加減のほうが好きです」
 普通のフラン型だと3人分にしかならないけれど、シリコン製の小さなモールドを使えば4人分になる。今夜は全品を控えめの量で作ることになっていたから、余ったフランを試食用の器に入れて、わたしもおじさまと「はんぶんこ」をして味見させてもらった。
 新作のフランはプリンのようにつるりとなめらかで、でも見た目以上に濃厚な味わいで、舌の上に裏漉したフォワの風味が広がっていく。ソースもトッピングも何もいらない、フランだけで十分に美味しい。小さいモールドは見た目より量が少なくて、「もうひと口食べたいな」というところで終わってしまうのが、なんとも心憎かった。
「アントレの一品ですし、これくらいの塩加減のほうが、素材の風味が良くわかると思います。ほんのり甘くてクリーミーで……でも、それだけではなくて……すみません。上手く言えません」
 もっとほかの表現があるはずなのに、本当に美味しいものを前にすると「美味しい」という言葉しか出てこなくなる。単なる「美味しい」だけではなくて、こみ上げてくるような感動があるにも関わらず、適切な言葉が出てこない。わたしは舌に残るフォワの風味が薄れていくのを惜しみながら、厨房の壁時計に目をやった。
 時刻は現在、23時20分。
 ダイニングにはヴィアンドの2皿目「ロニョンの薄切り」が出ていて、おばさまを主賓とする内輪の夜食会は、まさに宴もたけなわだった。
「で、ひよっこライオンの様子は」
「ぐっすりでした」
 おばさまたちに2皿目のヴィアンドをサーブしたあと、わたしはその足で2階へ上がり、自室をのぞいてきた。睡魔に負けてわたしのベッドを占領したリオンくんは、ふかふかの毛布を鼻先まで引っ張り上げて、気持ちよさそうに眠っていた。
 遅い時間だったから無理もないけれど、エレーヌおばさまにつれられてお店にやってきたとき、リオンくんはすでに眠たそうな顔をしていた。それでもこのときは、襲い来る睡魔より、おなかの虫のほうが強かったらしい。リオンくんはスタッフルームに入るや、旗ピックつきのミニバーガーに歓声を上げて、嬉しそうに頬張ったのだった。
「起こすのもかわいそうですし、お泊りしてもらったほうが良いのかもしれません。もし深夜まで長引くようでしたら、エレーヌおばさまも……客室のベッド、整えておきましょうか」
「一応、そうしとくか。それとオレのナイフセット、危ねェから出しっぱなしにしておくなよ」
「ハイ、すぐに片づけます」
 旗ピックのついたミニバーガーをおなかに入れたリオンくんは、おばさまたちの夜食会が終わるのを待ちながら、スタッフルームでおじさまが修行時代に使っていた包丁セットを眺めていた。それはドイツの名門工房で作られたプロ仕様の一式で、手提げカバン式のアルミケースのなかには、大小の包丁や剣串、研ぎ棒などがズラリと並んでいて壮観だった。

 

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