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SF・ファンタジー・ホラー

妖食フルコース フェスタン <アミューズ>

   

「すみれ……相変わらずキレイね」
すみれの背中に手を回し、できる限り慎重に抱き寄せて、ひと粒ダイヤのシンプルなピアスが輝く耳朶に囁きかける。

妖食フルコース フェスタン
 ~第2章:アミューズ~

Illustration:Dite

 

◆アミューズ◆
《ジャンボン・クリュ・オー・アスペルジュ》
 ~アスパラガスの自家製生ハム巻き、ポテトピューレ添え~

 必要は人間に悪事をさせ、
 飢えは狼を森から追い出す。

(フランソワ・ヴィヨン)

 骨細な――ひとだと思う。
 肉や脂肪がバランス良くキレイについているけれど、全体的に華奢で頼りなくて、強く抱き締めたら折れてしまいそうで。折れる、と言うより、「潰れる」と言ったほうがいいだろうか。
 衝動にまかせて手加減なく抱き締めたら、もろくもろくかぼそい骨がカシャカシャと崩れて。どこまでもきめ細かくなめらかな肌があっけなく破れて、とろりとした赤い血がとめどなくあふれ出して、柔らかな手足を伝って。真紅に染まり、絶え絶えに息をしながら、それでもきっとこのひとは、夢見る瞳でわたしを見つめる。
「すみれ…………」
「…………なあに、百合子さん」
「相変わらずキレイね」
 その身に一枚もまとわないすみれの背中に手を回し、できる限り慎重に抱き寄せて、ひと粒ダイヤのシンプルなピアスが輝く耳朶に囁きかける。恥じらうように軽くそむけた顔の、耳から頬に掛かる数本の後れ毛さえ愛しくて、思わず、可愛らしい造作の耳に口づけてしまう。くすぐったいのか、白い海に浮かぶすみれは、わたしの下でわずかに身じろぎをした。
「本当にキレイよ、どこもかしこも。あなたほどキレイなひとを、わたしはほかに知らないわ」
「ひどいひと。あなたにそんなことを言われたら、わたしは黙ってうつむくしかないわ」
「あら、お世辞だと思っているの?」
「だって」
 急に、少女のような表情になったすみれが、わたしにすり寄ってくる。フローラル系パルファンのラストノートにかすかな汗の匂いが入り混じる、わたしの一番好きな香り。不思議と、本物のすみれの花に近い香り。求めるまま、求められるままにすみれとの距離を縮めて、わたしはその香りを堪能した。
「美しいのはあなたよ、百合子さん。あなたが一番……誰よりも何よりも美しいわ。欠けるところのない満月。完璧な真円のパール」
「ほめすぎよ。ああ、いいえ、敬愛すべき四代目の腕をほめているのなら、話は別だけれど」
「美しく生まれ出た者のすべてが、永遠に美しくあり続けるわけではないでしょう? ため息の出るような花もいつかは枯れて、醜く朽ち果てていくわ。あなたは内と外の輝きを、不断の努力で保ち続けているから美しいのよ」
「だからそれは、あなたのことよ」
「わたしの? わたしの、どこ、が……あっ…………」
 すみれとの距離を少しだけ意地悪くゼロ以下にして、つまらない意地を張ろうとする甘いくちびるをそっとふさぐ。かすかに漏れる吐息に熱はなく、死を前にした者のように細く頼りない。それでも構わずに舌を絡ませ、するりとした柔肌に手を滑らせて、数えきれないほどのキス贈ってきた胸のふくらみを包んだ。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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