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SF・ファンタジー・ホラー

妖食フルコース フェスタン <アントレ>

   

男の名が蘇ると同時に、10年前の記憶が一気に押し寄せてくる。
気がつくと、俺は大声で呼び掛けていた。
「角野! おまえ、角野じゃないか!」

妖食フルコース フェスタン
 ~第3章:アントレ~

Illustration:Dite

 

◆アントレ◆
《サラド・ドゥ・ジュール》
 ~本日のサラダ、季節のフルーツをメインに~

 食欲は、食べるにつれて出てくる。

(ラブレー)

 さつきとの話を終えたあと、言いようのない疲労感に襲われて、俺はリビングの白いソファーにドサリと身を投げ出した。さつきはしきりに「東京へ戻る」と言っていたが、半年近くも実家に世話になっておきながら慌ただしく帰京しては、風邪気味のお義母さんも快くは思わないだろう。
 今月はいろいろあって忙しいが、来月からだいぶ楽になる。
 お義母さんの体調を含め、諸々を万全にしてから仕切り直そう。
 そう言ってやったら、さつきはしぶしぶといった体で承諾した。そうして俺に、外食でもいいから食事をきちんと摂るように、洗濯なんか宅配クリーニングでもいいから無理はしないように、といういつものセリフを残して電話を切った。
 俺もさつきも、互いに気ばかり遣っている。
 それが悪いとは言わないが、こうした気持ちの探り合いのような会話の繰り返しが、少しずつ互いをすり減らし、疲弊させていくような気がしてならなかった。
「どうすりゃいいんだ…………」
 考えても、答えなど出るわけがなかった。
 もし、礼央が本当に事故で命を落とし、そのなきがらをきちんと天国へ送ってやることができたのなら、あるいは、気持ちの整理というものができたのかもしれない。無論、すぐにはできなくても、四十九日、一周忌という段階を踏んでいくことによって、「気持ちの整理をしなくては」という方向に、ゆっくりでも向かって行くことができたのかもしれない。
 だが、この状況で、どうして礼央を諦めることができるだろう。
 礼央は悪いやつに誘拐されて、今この瞬間も、どこかで怖い思いをしているかもしれないのだ。寒くて、ひもじくて、さつきや俺を呼びながら泣いているかもしれないのだ。
 礼央が、どこかで泣いている。
 そう思うと、礼央を諦めることなど、とてもできなかった。
 ただ、さつきはもうとっくに限界点を超えているように思えた。礼央を探したいという気持ちは痛いほどわかるが、さつきにこれ以上の負担はかけられない。さつきの屈託のない明るさ、時には能天気とも思えるほどの楽天家ぶりが井原家のベースだったのに、今はそれすらも消えてなくなっているのだ。
「どうもこうもない。俺が探すしかない。警察が動いてくれるのを待っているだけじゃ、どうにもならない」
 声に出すことで、胸に決意を刻み込む。
 推測というより、もはや確信に近い思いだった。
 あの若い刑事は恐らく、礼央は川に落ちたと思っている。事件の可能性も捨てずに捜査を続けてくれるだろうが、9割がた事故だと思っているのだろう。
 担当の刑事にも話したが、礼央はおとなしそうに見えて意外と活発な、冒険心のある子だった。ハイパーレスキュー隊員を夢見る、正義感の強い子だった。だからこそ、子供の足にはきつい距離にも関わらず、ひとりで「捜索」に出掛けたのだ。あの若い刑事は、その結果の「事故」だと思っているようだった。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

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