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南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 第四話 企業内要塞学校(1)

   

平和な街並みの中で、銃器設計者である桜田 勇二は怒りを燃やしていた。

高官たちに非公式の依頼を受け、試作品の先行発注までしたにも関わらず、土壇場での落選通知を受けるという手ひどい仕打ちは、桜田にとって到底許容できるものではなかった。

桜田は、せめてもの仕返しにと、マンションの屋上から、高官の一人に、弾の出ない訓練用の試作銃の照準を合わせて引き金を引くのだが……

 

 六階建てのマンションの屋上で、桜田 勇二は、缶ビールをあおった。
 爽やかな風が吹いている中での飲酒だが、気分は晴れない。
 むしろ飲めば飲むほど、酔いとともにうっぷんがたまっていくようでもある。
 今は午後六時、人通りの多い時間帯だが、桜田の行動を咎める者はいない。
 何故なら、桜田がこのマンションのオーナーだからである。
 高級マンションの設備を、かなりの格安で提供している以上、よほどのことをしない限り、反対意見は出てこない。
 桜田には、家賃以外に、あてにできる収入がいくつもあった。
 だから、マンションの賃料は、ぎりぎり赤字の出ない範囲に抑え、言わば人気取りのための装置として機能してくれればそれで良かった。
 また、物件のオーナーとしての役割よりも、心血を注ぎたいことも、彼にはあった。
 だが、それは既に過去の話である。
(俺の全部が、台無しにされた)
 酔いの回った桜田の脳裏に、数時間前の出来事が、はっきりとフラッシュバックしてきた。
「君の設計は確かに素晴らしい。しかし、実験的に過ぎる。まあ、機会があったら、民間のメーカーなり海外に持ち込んでみることだ」
 遊猟管理庁の責任者は、タバコの煙を吐きかけるようにしながら、設計図と模型を突き返した。
 何度も「絶対に制式選定まで持っていく。安心していてくれ」と、桜田に繰り返してきた、先月までの態度とはまるで異なる。
 代わりに責任者は、傍らのケースから、革新性も何もない、一丁のライフルを取り出して言った。
「政府や国としては、これを制式にすることにしたよ。数日後にはマスメディアやネットにも情報が流れるだろう。やはり重要なのは、安定性だからな」
「そ、そんなっ。何も取り柄がなく、しかも弱点を是正もせずに、数十年同じ根本設計を維持し続けるのは安定性などではありませんよっ!」
 桜田は、衝撃のあまり声を荒げていた。
 もちろん、面と向かって、責任者たる政府高官の決定を非難し、選ばれた製品の欠点をあげつらうなど、完全に常識を外れている。
 しかし、それでも桜田は激怒せざるを得ない事情があった。
 制式銃選定の内定と引き換えに、「先行発注」をしておいてくれと、責任者たち、つまり、この会議場にいる全員から要求されていたのだ。
 機密の先出しにもつながる違法行為であり、もちろん法的拘束力のある話でもないが、要求を断ることはすなわち、「内定の取り消し」を意味した。
 内部告発しようにも、警察など、治安機関のトップもこの会議場にいるのだから、告発が受理される可能性はゼロであり、内定だけが取り消される結果となるだろう。
 スピーディーな量産体制の構築にも役立つという利益があるために、こうした一部の国家的プロジェクトでは「先行発注」は常態化していた。
 国そのものが法律を完全に無視するという状況を意味していたが、強固な権力基盤のせいもあって、今まで不満が外部に漏れるということはなかった。

 

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