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ハードボイルド

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 最終話 埋蔵された巨謀(8)

   

「集合。ようしっ、今日の仕事はこんなもんで一区切りだっ。夜中のことに備えて、しっかり休んでおけ!」
「はいっ!」
 腕時計が夕刻を示す頃、上岡が全員を集めて作業の終わりを告げた。
 威勢良く返事した男たちは、何かのスイッチを切ったかのように、仲間たちと気安く話し始めながら、プロテクターを脱いで、歩き去っていった。
 防具が外れたところから現われる、いかつく精悍な顔の数々が、強烈なインパクトを示している。
 松下は、ほっと安堵の息を吐いた。
 安全とは言え、やはり爆弾を扱うような仕事の緊張感は相当のものがあるし、周りで仕事をしている全ての人間が、どうやらカタギではないらしいという現実は、一応「学生」である松下たちにとっては、相当なプレッシャーともなっている。
 今までうっとうしくて仕方がなかった、収容区画への門限が、待ち遠しくて仕方がないぐらいに疲れている。
「おいっ、ちょっと待てよ兄ちゃん方」
 送迎のバスに乗り込もうとしたところで、上岡に呼び止められた。
 思わずびくんと飛びはねそうになりながら松下は振り向いた。
「どっ、どうしたんですか。何のご用でしょう。ああ、前のことなら謝ります。本当にすみません……」
「いやいや、何も説教しようってんじゃねえんだ。そんなに固くなるな。一月前のことなら気にするな。『仕事』をしていた俺が言うのも変だが、二谷はやるべきことをしただけだ。……ほら、受け取りな」
 上岡は、謝る松下を苦笑しながら制して、懐から中身の入った封筒を差し出してきた。
 手触りで、何冊もの本と、DVDの類が入っているのが分かる。
「あのおっかねえお姉ちゃんと戦わなきゃいけねえってんなら、是非こいつをものにすることだ。『外』ではお目にかかれねえ技術が詰まっている」
「ど、どうして僕にこんなに良くしてくれるんですか?」
 たまらずに松下がたずねると、上岡はにやりと笑い、松下の肩を、その巨大な手でばんばんと叩いた。
「『先行投資』みてえなもんだ。……いや、な、俺んとこのデキの悪いガキから、兄ちゃんたちの話は何度も聞いてたんだ。『カタギなのに、すげえ仕事をする連中がいる。奴等のおかげで俺は助かった』ってな。注目株には、厚く接するのは当然だろう。まあ、礼って部分もあるが。良かったら、こいつも受け取ってくれや」
 次いで上岡が差し出してきたのは、遊園地の入場券にも見える、数枚のチケットだった。
 地味ながら美麗なデザインで、「龍殿島地下観光案内」と書かれている。
 それを見た瞬間、新藤が上ずった声を張り上げた。
「りゅ、龍殿島……?」
「なんだ、知ってるのか兄ちゃん。俺らもいきさつは良く知らねえが、この島の正式名称になっているらしい。で、この島の隅々までをも知り尽くしている俺らは、地下を案内することができる。『外』でも興行の仕切りは俺たちの仕事だったから、慣れてんだ。色々、珍しいものがある。俺にゃあどうでもいい話だが、その手のブツを写真におさめるなりすりゃあ、ゆくゆくは、脱出のいいきっかけにもなるんじゃねえかな」
 上岡は、驚く新藤に向けて、笑いながら説明してから、この男にしては、極めて珍しいこと間違いなしの、人懐っこい笑みで、松下たちと向き合った。
 いい顔をしているが、信用できるかというと、二谷の千倍は怪しい。
 じっくり考えなくても、地下に連れ出して処刑すれば、向こうにすれば、面倒な二谷の部下を始末できるという話ではあるはずだ。 だが、島の看守たちを揺さぶれるだけの情報は、喉から手が出るぐらいに欲しいものだし、機嫌を損ねた時点で、何をされるか分からないという現実もある。
「さあ、どうするんだ。んん?」
(ぬ、ぬうう……)
 答えが簡単に出せないことを、楽しんでいるような上岡の声を聞きつつ、松下はごくりと喉を鳴らした。

 

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