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ハードボイルド

南関東文科大学 タイムカプセル発掘隊 最終話 埋蔵された巨謀(8)

   

「噂がマジだったんで、びっくりしたかい? でもよ、簡単な話なんだ。大金を裏のやり方で稼ぐんだったら、泥棒に取られんように、警察とは違う力の根拠が必要なんだ。って、看守連中は考えるだろうな」
「……ず、随分巨大な力ですね」
 ようやくのことで、松下は声を発した。
 言葉でくすぐられたと思ったのか、上岡は含み笑いを漏らしたが、松下には皮肉を言う余裕など残ってはいなかった。
 水溜まりにでも落ちたかのように、全身が冷や汗で濡れている。 千夏が軍事の知識がなかったことと、新藤が気絶していることは、動揺を防げたという意味で、せめてもの幸いだったかも知れない。
(やべえ、やべえよ。早く逃げねえと……)
 松下は、あり地獄のように、自分の取り巻く環境が危険性を増していることに、内心狼狽していた。
「無限砲兵」と出会えたことを喜べる余裕などあるわけがない。無理やり見せつけられた秘密などとは、一刻も早くおさらばしてやりたいのだが、手立てが見つからない。
「いや、いや、本当に驚きました。しかし、砲兵ということは、他にも色々な兵種の機械もあったりするのですか?」
「おおっ、そうとも。俺らの業界じゃともかく、表の軍隊じゃ、役割分担をしなくちゃなんねえんでな。砲兵に襲いかかってくる騎兵を防ぐ歩兵もいれば、城攻め専門の連中もいるようだな」
 違和感を持たれないようにと話を振った松下に返ってきたのは、最悪に近い現実だった。
 実際的な運用がなされているということは、無限砲兵は、張り子の虎などではない。
 この強烈な兵器に釣り合うほどの脅威が、島には存在するということだ。
 松下が、胃がぎりぎりと軋むような現実に、無表情の仮面の下で苦悶していると、上岡も、ふいに険しい顔つきになった。
「……まあ、喜んでばかりもいられん。強大な力は、そのまんま、俺たちを縛っている鎖でもある。脱けられんぜ、ここは。日本のどのムショよりも、はるかにヤバい」
「しっ、しかし、非合法物資を各地に送ったりもしているんでしょう」
「一方通行なんだよ。少なくとも人はな。ガラをかわすにゃ最適だが、こっちから向こうに行くことはできねえ。まあ、あの娘、今日子って言ったか、あれぐらいの才覚がありゃあ話は別かも知れんが」
 そこまで話すと、上岡は、何かを思い出したように、自分の右拳を自分の左手にぽんとぶつけた。
「ああ、そうそう。工藤経由で、その今日子からお前らに伝言を預かってたんだ。どうやら知り合いらしいが、リング上で『仕事』をするんなら、バレないようにな」
 上岡は腿のポケットから、封筒に入った一枚の手紙を取り出した。
 管理状態が悪く、かなりシワになっているが、薄桃色のかわいらしい封筒は、いかにも女の子っぽいチョイスと言えた。
(部屋じゃあ盗聴のリスクがあるからな)
 と、何の気なしに封筒を開けた松下は、中に入っている便せんを見た瞬間、全身の筋肉を激しく硬直させていた。
 一見、何の法則性もないような感じで並んでいるひらがなとカタカナ、そしてローマ字。
 かつて、松下とシュウが二人で、極秘情報を融通するために作り出した暗号文である。
 まだ、やり取りするような事態には至ったことはないが、解読方法はしっかりと覚えている。
 その手紙には、
「遅くとも数日後にこの島で戦争が起こる。万が一に備え、ここに隠れ、身動きせぬこと 藤原」
 と記されている。
 挨拶も修飾語も一切挟んでいないが、逆にそのことが説得力を高めている。
 盗聴にかかるのを恐れるのも、この話の内容なら納得である。
 しかし、リング上でほんの少しぶつかっただけの相手に、果たして、戦争が起こるかどうかという重大な情報を渡せるほどの信頼を抱けるものなのかどうか。
「ぬ、ぬううう……っ」
「おいっ、どうした? 兄ちゃん」
 松下は、ついに冷静さを保てなくなりうめき声を出した。
 しかし、上岡に声をかけられるほど悩んでも、容易にどうするべきかの結論は見出せそうになかった。

 

≪つづく≫

 

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