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ホラー / 怪奇 / 恐怖

妖精たちの贈り物 <はな>

   

「たっだいまー!」
「おかえりなさーい!」
 そんな物思いのなか、ウェイティング・フロアからちびライオンの元気な声が聞こえて来たと思う間もなく、オレたちの娘が厨房から飛び出した。梅澤のじいさまの、なんだかんだと話している声に続いて、オレたちの娘の歓声が上がる。ちび連中を甘やかすのがもはや生き甲斐となっているじいさまのこと、ねだられるままに土産菓子でも買って来たのだろう。
「あなた、お茶にしましょう。テラスにお席を用意しますわ」
「ああ」
 女たちが笑いさざめき合いながら、テラスへ向かう。
 そこにオレたちのかわいい娘が、興奮に頬を上気させて駆け戻ってきた。
「パパ! 水そう! 水そうかして!」
「スイソウ?」
「あのね、リオンくんがね、金魚をもらってきたの!」

 見事なバラに囲まれた、中庭のテラス席。
 シンプルなクッションを置いたガーデンチェアに、女王然として座る高橋の奥さんの前で、ちびコンビは悄然としていた。高橋の奥さんが金魚の入ったビニール袋を見るなり、眉をしかめたからだ。
「おばあちゃま、おねがい。ぼく、ぜったい大事にするから」
「まゆも。おばあちゃま、おねがい」
「ノン」
 高橋の奥さんが香り高いローズティーのカップを手に、首を横に振る。オレの女は心配そうに、サヨリ女は楽しそうに、三人のやり取りを見守っている。梅澤のじいさまは我関せずで、高橋の奥さんの左隣に侍り、濃いめのコーヒーをゆったりと飲んでいた。
 なんでも散歩ついでに立ち寄った近くの商店街で、縁日もどきのイベントをやっていたのだという。各店舗の商品を買うごとに素人屋台の引換券がついてくるという仕組みだったらしく、梅澤のじいさまは赤く色づいた大粒のさくらんぼをひと山買い求め、ちびライオンの手には6枚の引換券が渡ることになった。
 ちびライオンはズラリと並ぶ素人屋台の前を何度も往復し、悩みに悩んで金魚すくいとりんご飴を天秤にかけ、前者を選んだ。そうして初体験となる金魚すくいに挑戦し、じいさまからの的確なアドバイスのもと、体長7センチはあろうかというでっぷりした大きな黒出目金と、2センチにも満たない貧弱な体格の黒出目金をすくってきたのだった。
 もっとも、小さいほうは「まーちゃんの分がない」と肩を落とすちびライオンを見た屋台の親父が、オマケで入れてくれたらしいのだが。
「ねえ、おばあちゃま、おねがい」
「おお、モン・プティ、いけません。いきものをかうのは、とてもつみぶかいことなのですよ」
「ぼく、ちゃんとおせわするから。金魚の本も読むから」
「まゆも、お手伝いする。だから、おねがい」
 これ以上は問答無用ということなのか、高橋の奥さんが蜂蜜入りのローズティーで口にフタをする。役どころとしては義母に当たる高橋の奥さん相手に、どうのこうのと意見する勇気はとてもないが――自分たちの暴挙を棚に上げて、良くもまあ、そんなことが言えたものだと思う。
 オレは愛娘たちに助太刀してやるつもりで、「飼育ではなく養殖すればいい」と提案してやった。
「ようしょくって、なに?」
「若い魚にどんどんエサをやって、大きくしてから食うことだ」
「えー……食べちゃうんだぁ…………」
「どうしよう…………」
 オレたちの娘とちびライオンが、顔を見合わせる。
 大人たちが興味津々で見守るなか、ふたりはしばらく視線だけで言葉を交わし、やがてこくりとうなずいた。
「わかった。おばあちゃま、ようしょくだったらいい?」
「いい?」
「アンファン」
 高橋の奥さんが不承不承うなずくや、精神の9歳児同士はめいっぱいの歓声を上げ、手を取り合って喜んだ。
「おばあちゃま、ありがとう!」
「ぼく、この金魚においしいえさをいっぱいあげて、ぜったいに大きくするからね。それまでに、おじちゃまからお魚料理をならっておいて、おばあちゃまにごちそうしてあげるから!」
「あら、ママたちにはないの?」
「ママたちにもだよ、それくらい、大きくしてやるんだ」

 

-ホラー / 怪奇 / 恐怖

シリーズリンク

妖精たちの贈り物<全5話> 第1話第2話第3話第4話第5話

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