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年末恒例特番 怪盗VS探偵

   

「こんなところにいたのかっ!」
 何分経っただろうか、桜田の声が耳を打った。
 目を開けると、金庫部屋に桜田たちが駆け込んできたことが分かった。
「隊長」の部下や、カメラを持ったスタッフたちの姿も見える。
「ひどい怪我だ。『怪盗』に、って、おおおっ!」
 心配気に宮井に向かって声をかけていた桜田が、金庫の方を見て叫んだ。
 注意深い人間だったら、嬉しそうな気配が混ざっていることを察知するかも知れない。
「金の延べ棒とメモがなくなっているぞっ! 宮井探偵は、『怪盗』に殴り倒されたんだっ!」
 スタッフたちが、一斉にどよめく。
 恐らく、TV局の会場にも、動揺は伝わっているだろう。
 桜田はと言うと、何度も、「殴られたんだっ、宮井さんは『怪盗』に殴られたんだ!」と繰り返している。
(そうだっ、そうなんだっ!)
 繰り返される桜田の叫びが、宮井の思考に、一つの閃きをもたらした。
 宮井は激しく駆け出し、「自室」の直通電話を掴むと、追い付いてきたTVカメラに向かって、強く引き締まった表情を向け、声を発した。
「聞こえますでしょうか。スタジオ、聞こえますか」
「ど、どうしましたかっ、宮井さん、この混乱、怪我もされているようですが……」
 司会者は、本気で慌てているようだが、宮井は構わず言葉を続ける。
「今、私は皆さんに、残念なお話をしなければなりません。宝は、『怪盗 水月』」に奪われてしまいました。外の守りは完璧だったのですが、敵は、内側にいたのです」
 司会者は、一瞬息を飲んだようだった。打ち合わせにない展開だろうから、それも無理はない。
「ひ、潜んでたということになるんでしょうか」
 宮井は、頷いて、もう一度強い視線をカメラにぶつける。
「はい。怪盗は、『隊長』に化けていたようなのです。どんな手を使ったのかまでは分かりませんが、私も『隊長』と常に顔を合わせているわけではありませんから、細かい変化には気付き辛い。その隙を突かれたのかも知れません」
 そう、絶望することなど何もなかったのだ。
 盗まれたという結果が生まれた以上、盗んだヤツを「怪盗」に仕立ててやればいい。
 そのことを知っていたからこそ、「隊長」は、一時的に金を預かったのだろう。
 ついさっきまで揉めていた連中が、桜田の仕込みでないとするなら、番組を成立させるために、「隊長」が備えておいてくれていたのだろう。
 イベントが失敗して困るのは「隊長」も同じ。
 だから、自分で泥を被ってくれたのだ。
 金の延べ棒やメモがどこにあるかは聞いていないが、すぐに連絡があるだろう。
 とにかく今は、番組をまとめることが重要である。
「今回は、残念な結果になりましたが」
 司会者が水を向けてきた。
 宮井は、敢えて、笑みを浮かべてみせた。
「おっしゃる通りですが、負けたままにはしておきません。来年こそは、勝ち切って、『怪盗 水月』をこの手で捕らえてやりますよ」
 宮井が、来年は、という部分に力を込めてみせると、スタジオが一気に盛り上がった。

 

≪おわり≫

 

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