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年末恒例特番 怪盗VS探偵

   

「ちょっと用を足しに行ってくる」
「隊長」とのやり取りを一しきり終えた宮井は、トイレに向かった。
「ちわっ、調子いいっすね、宮井さん」
 館のトイレには、いくつもの便器が立ち並んでいる。使用人を多く雇っていた頃の名残らしい。
 宮井が足を踏み入れると、個室から男が出てきた。
 この「対決」番組を毎年中継している関東テレビの主任プロデューサー、桜田である。
 桜田は、サングラスの奥から、人の良さのない笑顔を見せた。
「毎年、ありがとうございます。関東テレビさんのお陰で、イベントの知名度も上がりましたよ」
 宮井は律義に頭を下げかけた。すると、桜田は手で宮井の動きを制しつつ切り出した。
「ただねえ、この企画ってどうしても『待ち』がメインになるでしょ。仕方ないんだけど、視聴者からも苦情、来ちゃってるんだよね。もうちょっと、テコ入れ出来ないかな」
「テコ入れ、とは?」
「まあ、俺が言うのもあれだけど、もうちょっと早く、呼びつけらんないかな。二時間番組って言っても、全部済んで三十分ぐらいだったら、まとめでつなぐこともできるんだから」
 笑顔ではあるが、油断できない視線をぶつけてくる桜田に、宮井は「真剣勝負ですから」とだけ言って目を逸らした。
 すると桜田は、一転して声の調子を和らげてくる。
「そりゃ、そうですね。いや、ごめんなさい、失礼しました。お疲れさんっす」
(やっぱり、感付かれているのか……!)
 桜田はこだわる様子も見せずに立ち去っていったが、宮井は、その背中を見ながら、冷たい汗が噴き出してくるのを感じていた。

 

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