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年末恒例特番 怪盗VS探偵

   

 怪盗と探偵、まったく対立する立場に置かれているとは言え、宮井家と水田家は繋がりがある。
 祖父の代から共鳴してきた経歴もあるし、何より、年に一、二度は同じことをしていることが大きかった。
 連絡先も知っているし、職業も住所も知っている。
 本来、その気になれば、事前に打ち合わせもできる間柄だし、事実、今までは調整をつけてきた。
 ちゃんと遅れずに現場に来る、秘密の内容があまりにも重く、タレントの方から泣きが入った場合は、こちらも捕まえず、怪盗も宝を盗まないという「無効試合」も検討する。
 そんな簡単な調整なら、前からやっていた。
 だが、今回に限ってはそうした「調整」は使えない。
 何故なら、怪盗役の水田 浩二から、一通の電報を受け取っていたからである。

ホンギョウツゴウツカズ、マタレンラクモデキズ 、トウジツカナラズマイルノデ、シンボウヅヨクマタレタシ ミズタ

 この文章を受け取った時、宮井はショックで気絶しそうになった。
 だが、想定せねばならなかったことでもある。
 何しろ、現実の社会には、一年に一度洋館に入るだけの「怪盗」などという職業は存在しない。
 水田にしても、ビジネスマンという本職を持っている。
 海外出張をしているところにトラブルに巻き込まれれば、本番当日の帰国ができなくなることもあり得る。
 今まで当たり前のように来てくれていたので、想定できていなかったのだ。

 宮井は、このことを、TV局や自治体に報告はしていない。
 問題の電報が来たのは三日前である。
 今さらキャンセルしても、穴が埋められるような話ではないし、対決そのものの「真剣勝負」感を薄れさせ、信用を損ねるのもまずい。
 頭を下げて済ますには、宮井たちはあまりにも深く、この「対決」に関わってしまった。
 何とかやり過ごして、視聴者たちが満足するような結果を引き出すしかない。
「いやあ、ここまで過去の勝負を見てきましたけど、やっぱり、『怪盗 水月』はすごい! 手強いですよ。だけどね、今日は五十人態勢の警備でしょ、絶対に捕まると思うんですけども」
 トイレから戻り、一息付いたところで、スタジオとの直通電話が鳴る。受話器を取ると、スタジオからの司会者の声が届いてきた。
 宮井は、真剣な顔で頷き、受話器越しに応じる。
「そう。『水月』は確かに強敵です。しかし、我々は彼の想像を超えるほどに、厳重な守りをしていますからね、ことによったら、諦めるかも知れません」
 宮井がそう言った瞬間、受話器の向こうに不穏な空気が流れた。 周囲に見えないよう、ポケットに忍ばせた携帯電話で見ている番組の中でも、スタジオの緊張感は、はっきりと見て取れる。
「失礼しました。彼は確実にこちらに来ますし、そうなれば私は、我々は、彼を捕まえます。今までと同様、何も起きないなんてことはあり得ませんよ」
「そ、そうですよね。いや、力強いお言葉ありがとうございます。では、また何かあったら連絡いたしますので……」
 宮井がびしりと言い切ると、番組司会者の声に、ほっとしたような雰囲気が混ざった。
 盗み見ていたTV画面から、こちらの部屋を映す中継が途切れたことを確認したところで、宮井はほっとため息をついた。
 午後七時半、番組が始まって、ちょうど三十分が経ったところだ。
 これまでは従来の進行通り、引き伸ばしに成功した。
 しかし、最終的に「対決」が行われなければ、全てが台無しである。
(早く、早く来てくれっ、水田さんよ……)
 宮井は、司会者に言ったこととは正反対の感情を抱きつつ、館の外を凝視していた。

 

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