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サスペンス

8月のエンドロール 3

   

 あいつ、メグミか! 
 驚きと恐怖が電流のようにタイゾウの身を貫いた。
 嘘だろ、おい、何してんだよ。
 声を出しそうになって、手のひらで抑えた。荒い息がもれる。
 気をつけろよ。これは録画だ。俺の声も拾われる。
 パトカーのサイレンが聞えた。はっとしたタイゾウは、録画を止め、足下の石を投げた。メグミもサイレンに気づき、玄関に向かう。自分は崖を登った。竹林は青臭いにおいに満ちていて、それを消し去るように土を掴んで這い上がった。ビーチサンダルを履いた足は滑り、爪に土が入り込む。上まで登り、何事もなかったように背中のバッグに取り外した望遠レンズを押し込んだ。
 タイゾウは誰もいないのを確認して、荒れた息を整える。スマホでここから遠い、だが徒歩で行ける距離のコインパーキングを検索した。
 今やスマホの明かりさえ、制服警官に追われる恐怖に繋がった。
 思い立って、家に連絡を入れる。
 偶然、友達と会ったから、泊まってくると連絡を入れておいた。
 騒然となりだした駅前をやり過ごし、事件現場に向かう誰かにぶつかりながら、足を棒にしていくつかのコインパーキングを回る。
 湿度と気温の高い夜は、タイゾウから水分を奪い、よろめかせ、渇きを与えた。
 シオリのワンルームマンションから逃げて、どれくらい経った頃だろうか。
 利用者が多いコインパーキングのひとつに、煙草の赤い明かりを見つけた。
 ……良かった。
 よろよろと近づくと、原付に寄りかかってうっそり佇むメグミがいた。黒い服はどこかで処分したのか、すでに普段の服装に着替えている。靴まで変えていて、荒事に手慣れているのが見て取れた。
「探した……」
 タイゾウの呼びかけにメグミはかすかに顔をあげた。血の気が引いて、唇まで真っ青だ。口元に運ぶ煙草は端から見ても震えていた。
「撮ったぞ」
「乗って」
 煙草を踏み消すと、タンデムを促す。わずかに躊躇ったタイゾウだったが、メグミの後ろに跨がった。締まったウエストに手を回すと、冷や汗で冷たかった。
 どこへ行くとも、これからどうするとも言わなかった。ただトコトコ走る原付を、遠く遠くと走らせた。
 辿り着いたのは隣の市のラブホテルだった。
 最近リニューアルしたのだろうか。
 ラブホテルはビジネスホテルと見間違うほど妙な潔癖感があった。そのくせ、内装は女神像だの噴水だの置いてあるから、ちぐはぐなことこの上ない。
 フロントでチェックインして、部屋に向かう。
 電車で六駅、歩けば一時間以上。距離にして二十キロは確実に離れている。しかし警察をよく知っているタイゾウからすれば勘づかれるかどうか、微妙な距離だった。
 二人とも無言だった。目が血走り、ひりついた緊張に満ちていた。
 メグミがふらつく。肩を貸しながら薄いカーペットを歩いていると、
「あれ? タイゾウか?」
 すれ違った客の一人に声をかけられた。すうっと悪寒が走った。タイゾウに近寄ってきたのはがっしりした体つきの若い男だった。顔が引き攣る。メグミが恥じらうように俯き、顔を隠した。
「……うーっす」
 震えないようにするので精一杯だった。男はタイゾウの異変に気づいた様子はない。
「なんだよなんだよ。お前らが入っていい場所じゃねーぞ」
 サーセンと謝るタイゾウの肩を叩きながら、酔った男は、メグミをちらっとだけ見ると千鳥足で行ってしまった。
「誰?」
「……うちの関係者」
「バレてた?」
「酒が入ってるから平気だろ」

 

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