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恋愛 / ラブ・ストーリー

奏でる愛と書き綴る愛! 完

   2015年3月27日  

 そこで文面は終わっていた。滾る感情は爆発しそうだった。しかし、まだ手紙を書く意思がここにはある。身勝手で許して、まるで近況報告をするように。また手紙書きます。といっているのがいやおうにでも伝わってくる。
 彼女は、死を選んでいない。自分で生きる道をみつけようと必死で苦悩している。それが伝わってきた。ヤマトの心は風の水面のように穏やかだった。その苦悩を分かち合いたかった。一人で絵を描いている8歳の娘をみつめていた。
「一美、おまえだけではない。俺にも罪があるのだな。孤独感に浸らせてしまったこと。なにより一人で育児をさせ、苦心していただろう。そんな心境を理解しようともしなかった。察する気持ちがまったくなかった。自分が陥ったとき、理解できた。俺も孤独だと思っていなかったが、ほんとうは孤独だったのだと。それを察することができなかった。俺も未熟だった。一美に直接いいたい。すまなかった、とな」

 千寿が読み終わると、ヤマトはカクテルを飲み干し、店員に追加注文をしていた。
「そうか」とヤマトに読み終えたことをわかるようにつぶやいた。
「どう思う?」ヤマトがいった。
 複雑な思いがこみ上げる千寿に、言葉は見つからなかった。
「まぁ、気遣いは無用だ」ヤマトは笑ってこたえた。
「だが俺は当時、妻のなにもかもを疑っていた。それでも有名になっていた俺が、妻のしでかしたスキャンダルに付き合うつもりはない。事務所に裏から手をまわして覆い隠すことで表にでないようにした。それがよくなかったのもまた事実だけどな」
 千寿は黙ってうなずいていた。ビールを一口含むと、ヤマトの顔が暗がりに隠れてしまうように頭をさげていた。
「どうした?」
「俺は、驕っていた。むかしおまえにいったことがある。恋愛なんかもう二度としない。派遣期間が恋愛期間なんてな。だが、それはまちがいだった。俺には金も名誉ある。だからメール一通で、電話一本で、そのむかしの女たちを呼び寄せることだってできた。一美を亡くしてからそういう関係を続けていたが、報いとなって跳ね返ってきたのかもしれない。解散報道から、誰も協力してくれる女すらひとりもいなくなった。哀れなものだ。金はあっても名誉が汚されたせいで、いま関わりを持つとちがった意味で報道されると思って敬遠される。みっともないよな。けっきょくお袋に頼って、音々の世話を全面的にみてもらって、同情されることはない―」
 千寿は黙っていたが、うなずいていた。「でも、それだけ打撃の渦中にいたわけだし、とうぜんといえばとうぜんだろ。自分を責め立ててもしかたがない。そういうメンタルが希薄な時期はある。俺もそうだったけど、ヤマトさんとともに奮起することでいつのまにか一人前になってきている」
「そうだけどな。みんな、俺を嫌って遠ざかっていった。それでもまだみんなとまた仕事がしたい。それが叶わないとわかっていても、俺はやっていきたい」
「それならいうけど、俺、ヤマトさんのこと嫌いだよ」
 ヤマトは目を見開いた。「なんで?」
「もちろん女との付き合い方とか、あと驕り高ぶるその余裕とか、うらやましいというのもあったけど―、でもこうしてむかいあって酒を交わしている。これまでもそうだった。嫌いがあって好きになる要素があるひとだと日々発見だった。嫌いから入り込んだかもしれないけど、いまはいえる。好きな人物であると」
「そういうことか」グラスをテーブルに置いて考えこむヤマト。
「だから、またあなたのがんばりや活躍が報道されていけば、周囲は認めてくれる。もしくは助けてほしいとすがってくるやつもいるかもな。もちろん身勝手で遠ざかったやつらだ。蹴落としてもいいと思う。それはヤマトさんが決めればいい。たぶんまた嫌われるとは思うけど」からかうように皮肉をこめて千寿はいった。
「言うようになったな、おまえ」ヤマトは微笑んでいた。
「ええ、それはもう、だから友でいられるわけだし」千寿も微笑む。
 ふたりは窓からみえる新宿の夜景に目を落とす。
「この街っていくらで手中に収められるかな?」千寿がいった。
「なんだいきなり」途方もないことを言い出す千寿にヤマトが驚いた。
「手にいれたい」
「そういう無鉄砲な言い方は俺の役目だぞ」ヤマトが千寿に指で差す。
「そうでした。元気になったヤマトさんと新章突入にむけて乾杯しましょう」グラスを持つ千寿。
「病人あつかいするな」グラスを持つヤマト、ふたりはたがいの夢の意思確認をしながら、これから業界に大暴れするつもりで、儀式のようにグラスを掲げた。

 

【完】

 

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シリーズリンク

奏でる愛と書き綴る愛!<全4話> 第1話第2話第3話第4話

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