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サスペンス

会わなければよかった 前編

   2015年11月4日  

 

◆◇◆◇◆

「ちょっと須磨子。なんなのよ、こんな辛気臭い場所に呼び出して。わたしたち、もう中学生じゃないのよ? まったく、つぐみなら息子がそれくらいだから違和感ないのでしょうけれど」
 ――と嫌味っぽく言って、つぐみをチラリと横目で見た。
「あ、うん。そうかも。実はね、この間も先生に呼ばれて息子の中学に行ったのよ」
 明らかに冴子の嫌味なのに、気付いて流しているのか、気付いていないのか、つぐみの口から母親としての言葉が出る。
 須磨子はそんなふたりを交互に見て、こういうやりとりも昔のままだと、クスリと軽く笑った。
「もう、笑いごとじゃないのよ、須磨子。それで? 用ってなに?」
 整備されていない校庭に不似合いな服装とヒールの靴で立つ冴子が本題へと戻した。
 須磨子がふたりを呼び出したのは、母校でもある中学校。
 彼女たちの時代は子供も多く、新設校が建つことも多々あり、この母校のはじめての生徒でもあった。
 上級生がいないことで、のびのびとできた学生生活で、教師も比較的若く、これといって最近問題視されている虐めなどもなかった――と思う。
 思うというのは彼女たちの知る限りではなかったというだけで、本当はその事実があったのかもしれない。
「冴子、そんなに急かさないでよ。ここ、何年も使われてないのがわかるでしょう? ふたりは知ってた? 数年前に廃校になってたこと」
「ええ、まあ。そんな葉書が来たような。うろ覚えだけど」
「わたしはその時偶然実家に戻っていてね。その話を聞いて驚いたのよ。確か、わたしが須磨子に教えたのよね? 葉書なんて来なかったし、冴子は須磨子から聞いたんじゃない? 時期的には夏頃だったから、暑中お見舞いかなんかで」
「あら、そうだったかしら? ごめんなさいね、夏場はお盆休みが入るから仕事がいろいろ前倒しで忙しいのよ。専業主婦のつぐみにはわからないことだろうけれど」
 どうも冴子はつぐみにひと言ふた言嫌味を言わないと気が済まないらしい。
 それも昔から変わらないな~と須磨子は呆れたような溜息をこぼして思う。
「いやだな、冴子。それくらいわたしだって知ってるよ? わたし、百貨店の店員してたし、その時期は冴子の職場より忙しかった記憶があるもの。て、そんな話をしたいわけじゃないよね、須磨子。ここが廃校になったのと、今日の呼び出しと、なにか関係があるの? そういえば、中学の頃の須磨子って少し人付き合いが悪かったような印象があったよね。わたしの記憶違いかな」
 記憶を遡るように小首をかしげるつぐみは、視線だけを冴子に向けた。
「あら、なにかしら、その目。須磨子が突然態度を変えるのは小学校の頃からよ。わたしだって気付いてたけれど、距離を置こうとしている人にすり寄っていくほどお人よしでもないの。わたしたちはそれでこの歳まで上手く付き合えているんだからいいじゃない」
 あくまでも大事なのは自分自身、自分に不都合が生じるだろうことには首を突っ込まないのが冴子のいいところでもあり、冷たさを感じるところでもある。
 逆につぐみは冴子と真逆で、厄介ごとに首を突っ込みたがる。

 

-サスペンス

シリーズリンク

会わなければよかった <全2話> 第1話第2話