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ショート・ショート

さよならの日

   

 
 ほどなくしてお兄ちゃんは戻ってきた。こちらに差し出してくる。四つ折りにされた紙だった。視線を少し茶色い瞳に送ると、顎で紙を指される。仕方なく受け取った。
 開いてみると手紙だった。「修司へ」から始まっている。顔を上げる。

「読んでいいの?」
「よくなきゃ渡さないだろ」

 確かにそうだ。少し型崩れしている文字を追う。小学生が書いたような下手な字だった。読めるから問題ないけれど。

 内容は引っ越しを知らせるものだった。「圭吾より」で締められている。圭吾という名前に聞き覚えがあった。お兄ちゃんの顔を見返す。

「これ、何?」
「圭吾はその手紙をくれる二週間前に、一番仲がよかった女子を交通事故で失った。道の向こう側に女子の母親がいて、車が来ることを確認せずに道に出ていったらしい。そうしたら、まあ……しかもそのとき、圭吾も一緒にいた。一緒に遊んだ帰りのことだったらしいぜ」

 返す言葉が見つからなくて、手元の手紙に目を落とす。思い出した。お兄ちゃんの中学校の頃の友だちだ。まだ年賀状のやり取りをしている。

「俺は圭吾から直接その話を聞いた。どうやら友だちの中では俺にしか話してなかったらしい。しかもこいつは自分を責めてた。自分がもし遊ばなければ、この女子は今も生きてたんじゃないかって。そんなことはないって俺は言ったよ。でもあいつの耳はただのお飾りだった。結局苦しくなって、引っ越すことにしたってわけだ」

 お兄ちゃんは苦々しそうに笑っていた。

 

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