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恋愛 / ラブ・ストーリー

カセットテープ

   2016年6月17日  

 
 煮魚を肴に父はビールを傾けながら母と姉が亡くなった時のことを訥々と話し出した。
 二人が亡くなったのは、僕が生まれたすぐ後のことだった。
 父が久し振りの休日だったので母は寝かしつけた僕を預けると、姉が好きだった美少女キャラクターのおもちゃを買いに出かけた。
 二人とも久し振りの外出だったらしい。
 父は毎日仕事で帰りは遅く、母は乳飲み子の僕と活発な姉を一手に引きうけていた。姉は姉で僕の面倒を見ていてくれたようで、母はそんな姉を褒めた。
 そのご褒美のおもちゃを買いに出かけたのだ。
 おもちゃを買った帰り道、車を運転していた母は助手席の姉に気を取られハンドル操作を誤ってしまった。
 慌ててブレーキを踏んだものの、人であふれる歩道に車は突っ込んでしまった。二人が乗った車はビルの壁に突っ込んで停車し、歩道は怪我人で溢れた。
 その時、姉はシートベルトをつけておらず即死だったらしい。かろうじて生きていた母も病院に搬送されたが三日後に亡くなった。
 事件は大きく報道され、糾弾の矢面に立たされたのは父だった。
 多額の賠償金や人々の悪罵で心労が重なった父は、僕を連れ逃げるように祖父母が暮らしているこの土地へやってきたのだそうだ。
 煮魚をぱくつきながら父は続ける。
「お前に言うつもりがなかった訳じゃない。二十歳の節目を迎えたら言おうと思ってた。物の道理がわからんうちに教えると、よくないだろうってじいさま達と決めてな。
 ――それにあの事件をこの辺りにも知ってる人がいるかもしれんからなあ。言うに言えなかったんだ。だからお前が写真見つけた時は焦ってな。どうしたもんかと思ったよ。
 母さんもお姉ちゃんも可哀想だがこっちの都合で二人のことを教えてもらえなかったお前も可哀想だ。……悪かったな、智」
 父が頭を下げる。

 

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