泣かない強さを知ったエリザに、微笑みかけてくれる人々の優しさ。
「寂しいんです。諦められてしまうのも、全部」
『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編』
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新章 第12話「泣かない強さ」
私は、城から出て、そして初めて民と心を通わせた。『生きる』ことがとても難しく、辛くて仕方がないということを知ったのだ。
そんな私だからこそ、聞くべきだ。あの日国民達が、落ちる城を見て、何を思っていたのかを――――。
「あなた達は、何もわからないまま巻き込まれて、奪われた。きっと、たくさん怖い思いをして…不安な夜を過ごしたのでしょう」
「…………」
「のうのうと行方を眩ませた…王子と姫を…恨まないわけがない…」
ぐ、っと涙が溢れるのを堪えた。膝の上に置いた拳が震える。
「……恨まれていて……当然だ」
私の言葉は、私自身に向けられたもの。兄の背に隠れて生きてきた、私に向けた言葉なのだ。
――――民のことを考えることもせず、兄のことばかりに気を取られていた私。恨むどころか、刃を向けられてもおかしくはない。
「私達もね、王子殿下と王女殿下のお噂は聞いていたの」
「…両殿下は…国王陛下のご長男、ベルモンド殿下が失踪されて以降、陛下とはお住まいを離された、お可哀想な方々」
「!」
そう口にした彼女達の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。
彼女達の瞳には、見覚えがあった。スウェナも、私のことをそんな眼差しで見つめていたから。まるで、『何かに気づいている』。けれど、『それが何かはわからない』。そう言いたげな視線だ。
「――――きっとね、心の底からあの方達を恨んでいる者なんて……カーネット王国の国民の中には、誰一人として存在しないのよ」
「え……」
思いもかけないナナの言葉に、私は目を見開いた。そんな私に、マーロンまでもが頷きかける。
「……――――私も、あのお方達の選択が間違っていたとは思えないわ」
「…………」
マーロンの強い口調には、迷いがなかった。だからこそ、私は何も言えなかったのだ。
私は、私の選択が間違っていなかったとは思えない。もっと最善の道が――――皆が助かる道があったはずなのだ。
私の情けなく、さ迷った視線は、長い時間をかけてようやく一ヶ所に落ち着いた。そこで、ナナが口を開く。
「……エリザちゃん。あなたもきっと、間違えたと思ったことがあるのでしょう?」
「…! ……はい」
「でもそれが本当に間違っていたのかなんて、誰にもわからない」
私の中にはなかったその答えに、胸が疼いた。彼女の言葉はとても重く、それでいて優しい。