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現代ドラマ

家元 第五部 和義と琴乃(前編)

   

 
師範代見習い
 

「なんや色っぽくないな。」
「え、ウソ、うち、そっくりやと思うけど。」

昭和43年3月、テレビやラジオでは青江三奈の「伊勢佐木町ブルース」が盛んに流れていた。踊りの稽古に通ってくる生徒たちも、稽古場では女しかいない気安さから、悩ましい吐息の出し比べをしていたが、誰も上手くできなかった。

「変な声を出して、どないしたん?」

稽古場にでてきた琴乃が笑って訊ねると、「誰が似ているか、比べとる・・あん、あはーん・・」と一番年下の20歳になったばかりの山下智子が声を出したが、やはり様にならない。

「ふふ、智子ちゃんには無理やな。まだ経験が足りん。」
「ほな、三田村先生がやって下さい。踊りと同じ、お手本を見せて下さい。」

彼女は琴乃の茶化しに、頬を膨らませて言い返してきた。

「あ、ふぁーん・・あはは、恥かし・・」
「はは、ははは、やっぱり違う。智子ちゃんとは違う。」
「三田村先生にはかなわん。」

名取になって3年、28歳になった琴乃は志乃から師範代見習いとして、勤め先のデパートの定休日である火曜日、午後の小学生の部から夜の一般の部まで、全ての稽古を任されていた。

「先生、てなもんや三度笠、来週で終わるんよ。」
「やっぱり藤田まこと。」
「うちは珍念の白木みのる、可愛い!」

超人気番組「てなもんや三度笠」のことは勤め先でも話題になっていたので、琴乃は知っていたが、テレビを持っていなかったから、見たことがなかった。
 

 

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