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異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第29話「再び出会うその時は」

   2017年9月13日  

 
「お腹空いたでしょ! さぁて朝御飯! 今から作るわねっ!」
「私も手伝います」
「あら、助かるわ……って、キール! あんたどこ行こうとしてんの!」
「い、痛い痛い痛い! 離してよスウェナ!」
「遊びに行く前にご飯! ご飯の前に手伝いでしょ!」

 すっかりいつもの見慣れた風景に戻った家の中。私は軽くなった足に触れて、息を吐く。

「……よし」

 島の皆と話そう。私の全てを打ち明けるのだ。
 否定されたら、信じてもらえるように努力すればいい。簡単に受け入れてもらえるわけがない。だからと言って、諦めるのは私らしくない。

「エリザちゃーん! 庭から香草を摘んで来てー!」
「はーい!」

 だから今は、後ほんの少しだけ、この人達の家族でいたい。

***

「あー……あー……畜生……」

 潮風に揺れる小さな船から、気だるげな声が響いてくる。疲れきった声には、嬉々とした感情は一切込められていない。

「やっと解放されたぜ、クソ……。あのババア人使い荒すぎだろうがッ!」

 明らかに不満を溢すその様子から見るに、彼はかなり苛立っていた。船の乗組員はこの青年だけ。
 広い海の上で、自分だけが取り残されたような感覚に陥った彼は、静かになって空を見上げた。そして、過去の失敗を思い出す。

「ババアより、俺の方がよっぽどクズだな」

 そう呟いて、彼は遠くの景色を睨んだ。その視線の先にあるのは、。彼はこの青空の下、一人きりでその島を目指し、海を渡っていた。

「……あーあ。何やってんだろうな、俺」

 『下らない』『面倒くさい』『腹が立つ』。彼はここまで来るのに、何度もそう考えた。だが、一度も立ち止まることなく、この海を渡ってきたのだ。
 その答えはとうの昔にわかりきっていたが、未だに認められずにここにいる。彼は今も迷いながら、答えへ向かっていた。

「忘れればいいのに」

 忘れられない。

「諦めればいいだろ」

 諦めたくない。

「……生きてるわけねーよ」

 絶対に生きている。

 ――――心の葛藤から目を背けて、彼は膝を抱えた。信じていたいと願う度に、締め付けられる胸の痛み。彼は、この気持ちが何なのか知りたかった。
 
 

≪つづく≫

 

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