幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】5

   

 青い二人は背を丸め視線の置き場に困り、壁に設えてある時計をみた。

「夜の9時か」そろそろ帰宅時間だ。やることないやつは帰宅していい頃合いだ。

 事務員の輪都は9時から18時までの労働で、きょうみたいな出張というときは報告書があるため、このくらいまで居残りになってしまう。翌日にまわさないのは氷室の方針でもあった。翌日では忘れてしまう。いちどの睡眠で記憶のゴミ置き場のなかに埋もれてしまうからだ。そのなかにだいじな情報があったりする。その日のことは当日すませるのが必須とさせている。

「ではお先に」軽く会釈して事務所をでる輪都だった。

 報告書はとっくの前に提出して終わっていたが、氷室はどう感じたかを結果を教えてもらえない。何度も読み返している。そこへ御影の感想文の追加。それを待っていたのか、それを踏まえて結果をつたえるのか、おそらく翌日には氷室からの罵声と叱咤と理屈を述べられる。

 輪都は早々退社したのは本日のこっていてもこたえは得られないし、質疑応答は探偵である御影の仕事だった。輪都には関係ないと、さきに帰宅した。

「おつかれさま~」氷室は小柴に声を投げた。「小柴くんも上がってくれたまえ」

 バナナもひとつ返事で、はい、と言ってデスクまわりを片づけはじめ数分後に事務所をあとにした。

「それでは自分も帰ります」御影もさすがに帰ったほうがいいのかもしれないという空気を感じた。

 だが、二人になるために氷室は機を待っていた。「御影くん、翌日にまで持ち越す答えではないからいまつたえる。私なりの見解だ」

 はい、目の色を変えた御影は、結果がでるのはこの上なくうれしい。誉れ、叱咤、どちらでも構わない。とにかく、きょうの探偵として活動した個人成績を聞かされるのを醍醐味にしている。

「どうでしたか?」

「おまえなりのおもしろい推理だ」

「ありがとうございます」御影は微笑んだ。

「だが、これで満足か?」

 御影はなにをいっているのかわからなかった。

「自分の仕事をしただけで終えて事務所にもどってきたのは満足いく判断してもどってきたのかと聞いているんだ」氷室の鋭い視線に胸を切り裂かれる。

「いえ、たしかに満足いく結果ではなく、それにもしかしたらただのイタズラかもしれないというご主人と美咲さんがいっていました。それいじょう詮索をすることが許可がでなかったため行き詰まりに──、調査を断念しました」御影の顔が曇った。そしてあの屋敷での詮索などのやりとりが脳裏によみがえった。

「ひとつの発想がおまえの頭脳には浮かんでいた。その推理を披露してもよかったんじゃないか。そうしたら顔色が変わるかもしれない。ご主人と奥さん、執事も関わりがあるかもしれない。それをやりもせずにただ黙して帰ってきた。浮かんだ推理は迷宮入りか。迷い込んだままストーリーにピリオドを打つことができるのか。まだ書きたいことがあれば書いていい。白紙の紙は無限だろ、まだまだ記すことは可能だ」

 御影は氷室の遠まわしな言わんとする答えを察した。

 まえのめりに御影は氷室に食い入る。「氷室さん、俺の推理は的中ですか」

「暑苦しいな。まだ計算途中だろ。答えを急ぐな。たどりつくまでワクワクしてたのしいだろ。そして思い描いたとおりに解き明かしていく。追い込まれた対象者のくすんだ顔色をみてこういうんだ。チェックメイト、あきらめろ、ってな」

 氷室は百戦錬磨の自信からくるものだ。だれもが言い切れることではない。

「それでも気をつけろ。これはすべて推測、そしてまだ経緯だ。証拠がないかぎり、盲点があるかもしれない。危うい段階ともいえる」

 はい、御影はうれしくなった。ふがいない未熟な自分に渇を入れたい。

「興奮はするな。来週末また行ってこい。“ほどよく”とはいったが、この依頼はおまえたちに任せる。やる気のない輪都とがんばってこい」

「やる気にさせますよ」御影は笑みを浮かべた。それは誇示するなにかを秘めていた。

 

-ミステリー
-, , ,

シリーズリンク

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

おすすめ作品

見習い探偵と呼ばないで! Season10-4

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】12

見習い探偵と呼ばないで! Season10-5

探偵の眼・御影解宗の推理 【ぼくらのガーベラ】2

見習い探偵と呼ばないで! Season7-2