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ミステリー

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】9

   

 輪都の部屋からもれる音はIT企業関連のニュースが聴こえる。

「しつこいやつだな」御影はすこしだけ毒を吐きながら、ゆっくりと休んで、あす手紙の意味をしっかりと話すことになる。

 自然にかこまれた場所で部屋の電気も消して、月明かりだけを浴びるような時間にひたっていたせいか急速に睡魔が襲ってあくびがでた。

 壁に取りつけられた掛け時計は闇の中でみえなかった。でも、たしか23時になろうとしていたところだったと思う。

 眠りにつくまえに時間を気にしているなんて意味はまったくない。ただ明日は7時に起きればいいと思っている。どうやら十分な睡眠がとれそうだ。
 
 

 暗闇の中であおむけのまま深い眠りについていたというのに、夢すらみていたかおぼえておらず上体を起こしてまぶたを開けていた。

 焦点はまったく合っておらず、いまどこでなんのためにここにいるか記憶の歯車すら狂っていた。

「はあ、はぁ、はぁ…くっ、なんだこの頭のなかの、うねりをあげて荒海の中にいるような気分は…」

 夜中に御影はなぜか起きてしまった。なぜ起きたか、執着するほどその答えをもとめていた。だが答えはでない。しかし、まるで危機察知能力が働いたかのような体感を感じてならない。

「まいった、だが、しかたあるまい…長柄さんにあれだけ注意されたが、最大の限界点を超えてしまった。いそがねば──」

 御影は決意の思いを込めて部屋をでた。一階にはトイレが数ヶ所ある。この奥まった部屋からだとすこし離れていたと思う。

「トイレどこだったかな」

 壁づたえに手探りで廊下を歩く。真っ暗だった。スリッパのパタパタという軽い音が異様に耳で響く。軽くて恐怖心はまったく感じない。

 トイレのところまできて、すませることはすませたが帰り道が真っ暗でわからなくなった。またしても方向音痴がでてしまった。右からきたはずだが、御影はまっすぐ進んだ。このトイレはT通路だったため、なぜかかんちがいをしていた。

 直進してちらっと曲がり角をみると、淡いオレンジ色の灯りがともっていた。

 御影は目を細め、お化けでないことを願うばかりだった。それは通路のすみから人工的な灯りがともっているものだとはっきりと捉えた。

「あんな端っこになんで…」

 周囲を見渡しても必要のない箇所に光がある。足もと注意のための光が点在しているわけではない。

 あの一角だけどうして。御影の疑問は遠目でみても解決できそうにない。

「ならこの眼でたしかめればいい。推理でもなんでもないがな。事実確認だ」

 灯りに近寄る蝶のように御影は淡い灯りに舞っていく。

「暗くてあまりよくわからないが…」手の感覚でその壁面をさする。

「これは扉なのか…縦長の壁のしたから灯りがもれている…わけじゃないようだ。これは地下があるんだ…地下へ通じる戸…」

 御影は気づいた。この部屋には地下室がある。

 そして、いま地下室にだれかがいるということだ。この壁のむこうになにかを隠すような部屋があるというのか。御影はそう思った。

 そのときだ。背後に気配を感じた。しかし、気づいてもおそかった。

 振り返っても真っ暗闇の中では、なにがいるのかわからなかった。おそらく人影だろう。しかし、御影は顔に布をかぶせられた。

 正面をむきあっているため両手でその人物に掴みかかろうとしたが、一瞬で気を失った。

 かぶせられた布にはクロロホルムの液がしみこんでいた。鼻から呼気をやめても口もふさがれている。どうしたって吸い込むしかない。生きるために呼吸はとめられない。

 クロロホルム特有の甘い香りは夢の中に誘うにちょうどいいのだろう。暗闇はもっと深くなり、御影はついに泥人形のようにその場で崩れた。

 ここに来るまえに氷室名探偵にいわれたことがある。

“おまえにすべてを任せるわけにはいかない。どの依頼も安全ではない。どんなことでなにが理由で身を危険にさらすかわからない。もしかしたら、事件の犯人が存在している可能性だってあるかもしれない。そしたら、わたしの責任になりかねない”。

 氷室は従業員の責任をとる立場にある。御影がつぎ、目を覚ます保証はない。

 

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