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恋愛 / ラブ・ストーリー

オクターヴ上げて奏でる[1] ポロネーズ

   2017年12月11日  

 彼女のピアノを聴いてから、僕の心はすっかりと音楽に馴染んでいて、その後のプログラムも興味を持って聴くことができた。
 全ての演奏を聴き終えてロビーにいると、ドレス姿から制服に着替えた彩乃さんが、僕達の所へ駆け寄って来た。
「崇、丁度いい所にいた。ピアノ動かすの手伝って。」
 崇は姉の言うことに渋い顔をするが、逆らいもせず、僕も彩乃さんに連れられてホールに戻った。
 観客の立ち去ったコンサートホールは先程よりも広く感じて、人の熱気を失うと冷たい空気が頬に当たる。舞台上には彩乃さんと同じ制服を着た二人の女の子が立っていて、僕達を見ている。
「ごめん、ごめん、弟連れて来たから、さあ動かそう。」
 女子二人は、唖然として崇を見ていた。それはそうだろう、弟だと言っても似つかぬほどに、崇は彩乃さんと系統の違う人間だ。
 崇はコンサートホールよりも、クラブの方がお似合いの風貌だから、姉弟だと言われても鵜呑みにできないはず。
 共通点と言えば、崇も、まぁ男前であるから、美男美女と言ったところだろう。
「この人、原田先輩の弟さんですか?」
「そう、こう見えても中学まではピアノやっていて、私よりも上手かったんだから。そうだ、弾いてみなさいよ。」
 いやだ、いやだと言いながらも、崇は姉の圧力に負けてピアノの前に立つと、彩乃さんの顔を見ながら、「なんだよ、何を弾くんだよ。……」と、嫌そうにしている。
「何でもいいわよ。ほら、早く。」
 崇は鍵盤に指を添えると、流行りの歌謡曲のメロディーを単調に弾き始めた。
 崇がピアノを弾いている姿を初めて見たから、僕には新鮮な光景であったが、彩乃さんは不服そうな顔をしながら、「ちょっと、ふざけないで、ちゃんとしなさいよ。」と、言っている。
 崇は溜息を吐くと、堪忍したかと思えば弾き始めたのは《きらきら星》だった。
 これは姉に対する崇の反抗だと思って焦ったが、彩乃さんの顔を見ると先程よりも納得した様子。僕には理解し難く思えていると、崇の指使いが速くなり、軽やかなテンポのきらきら星がホールに鳴り響いた。
 僕が知っているきらきら星とは、ちょっと違うメロディーに驚いていると、彩乃さんが「子供の頃、よく弾いていたのよ。モーツアルトの《きらきら星変奏曲》」と言ったことで、崇が勝手にアレンジした曲ではないのが分かった。
「おい、もういいだろ。これ以上弾いてたらボロが出る。」
 崇は中途半端な所で曲を止めて、彩乃さんに訴えかけている。
「なにがボロが出るよ、とっくにダメ。右手が走りすぎ。」
 姉のダメ出しに、崇は不貞腐れているようであった。僕は彩乃さんの指摘することは分からないが、崇のピアノを聴いても奏子という女の演奏が頭から離れないのは、彼女が相当な腕前であるのを比較できた。

 

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