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恋愛 / ラブ・ストーリー

オクターヴ上げて奏でる[1] ポロネーズ

   2017年12月11日  

 放課後、彼女の麻衣子とカラオケボックスに来た。
 ボックスの中で麻衣子は恥じらうこと無く、制服を脱いで私服に着替えようとしている。
 白いワイシャツのボタンを外した胸元から、薄いピンクのキャミソールが見えると、僕は視線を逸らして曲本を手に取った。
「ねぇ、脱いだついでに、しちゃおうか。」
 僕と麻衣子は幾度となく、この空間でセックスをした。アルバイトの給料が入ると、ラブホテルに入ることもあるが、安く済むからカラオケボックスですることが多い。特にここは、元々ラブホテルだった場所を改築した場所だから、部屋の作りもそのままで、トイレはユニットバスになっているから、使用禁止と書いてはいるがシャワーもついている。
 崇から聞いた奏子さんの話を思い出せば、そんな気分にはなれなかったが、麻衣子が手でさするペニスは、僕の頭の中で考えていることと相反した様子になっていた。
 膨らみ上がったペニスを開放するように、麻衣子は僕のズボンとトランクスを足首まで下ろすと、上目遣いで僕の顔を見て微笑む。
 口の中に含まれたペニスの先に生暖かいぬめりを感じると、理性を奪われて麻衣子をソファーに押し倒した。
「ちょっとまって、ゴム。」
 麻衣子は、床に放り投げられた鞄に手を伸ばすと、そこから小さなポーチを取り出して、さらにそこからコンドームを一つ取り出した。
 ピンク色のコンドームを、麻衣子は慣れた手つきで僕のペニスに取り付ける。その間の虚しさは言葉にならない。
 気をまぎらわして、いつも考えることがある。そもそも子供をつくるための行為なのに、できないようにするのは人間だけだろう。……こんな無意味なことはないと思いながらも、実際に麻衣子が妊娠したと聞けば、僕も気持ちを取り乱してしまうはず。
 コンドームを取り付け終えた麻衣子は僕に軽くキスをすると、準備を整えたようにソファーに横たわった。僕が麻衣子の陰部に手を当てて軽く刺激すると、甘い声を出している。ソファーの狭い幅に合わせて彼女の股を開くと、コンドームを付けられたペニスを、彼女の中に押し込んだ。
 柔らかな温かさが脳を刺激する。理性を奪われた僕は、羞恥心のないもう一人の僕だ。
 閉じ込められた本来の僕が、心の中で呟いている。麻衣子のこの姿を何人の男が見たのだろう。……
 どうしようもない嫉妬心が表れると、我を失って彼女の首を舐めまわす。ブラジャーのホックを外さぬまま、胸だけを露わにして舐めまわす。それは愛の表現ではなく、彼女を汚らわしいものにしたいと思う行為だった。
 彼女を汚したい。自分の色に染めて汚したい。体中に僕の後を残したい。そうすることで彼女を囲いたい。麻衣子はそれを自分が求められていると勘違いしているが、そんな綺麗な感情ではなかった。

 行為を済ますと、僕は床に脱ぎ捨てられたトランクスとズボンを穿いて、鞄から煙草を取り出した。学校の近所や、校内のトイレに隠れて吸うようなまねはしないが、カラオケにいる時などは煙草を吸う。 
 僕は、短ランやボンタンの制服を着て、髪型をリーゼントで決めるような不良ではないが、背伸びしたい気持ちがあるのは事実。
 煙草に火を点けると、麻衣子はキャミソール姿のままで側に寄って来た。
「ねぇ、私にも一本ちょうだい。」
 麻衣子は火のついた煙草を僕の手から取り上げると、煙を口の中に含んで吹かしている。さっきまでは汚してやりたいと思う気持ちでいっぱいだったはずなのに、肌着姿で煙草を吹かす女の姿を見ると、あばずれに見えて汚らわしく思う。
 そう感じてしまうのにも理由がある。小学五年生の頃に僕と祖母を置いて出て行った母を思い出すからだ。
 父親は物心がついた時からいなかった。僕は、母と祖母の三人で暮らしていた。
 母はスナックを経営していて、僕は夕飯をそこで食べることも多かった。
 焼きそば、チャーハン、お客に出すための肉じゃが、里芋などの煮物。毎日、スナックで酒を飲みながら食うような物ばかりを食べていた。羽振りのよさそうな男性客が寿司を買ってきてくれる時もあった。
 僕が寿司を受け取ると、母がその男に酒をつくり、受け渡す手を男は握り、いやらしい目で母を見ていた。そんな男が一人や二人ではなかった。
 母は毎朝、僕が学校に行く時には下着姿のままで寝ていた。学校から帰って来ると、下着姿で煙草を吸っていた。
 ある朝から、下着姿で寝ている母の姿を見なくなった。学校から帰ってきても、下着姿で煙草を吸う母の姿は見なかった。
 それから僕は祖母と二人で暮らしている。祖母が母と連絡を取り合っているのか、本当に行方知れずかも分からない。
 七十二歳の祖母は働いていないから、僕の学費も心配するなと言うだけで、どうやって工面しているのか分からない。
 母は六人姉弟の二人目で、上から五人目まで女で、一番下に弟がいる。
 そして六人の姉弟には、三人の父親がいた。祖母も若い頃はずいぶんと気が多い女だったようだ。
 僕は、祖父にあたる三人の誰とも会ったことがない。
 そんな祖母の血を受けた母を、僕は不潔に思っているから、このような姿の女が汚らわしく見える。だが、自分でこの女を選んだのも事実。そして進学校に通う優等生を、このように変えたのも僕なのだろう。
 奏子さんのことを思い浮かべた。いつのまにか僕は、彼女の心にある闇を連想していた。彼女の抱えている闇を、いやしてくれる人は今日までいたのだろうか。……それが男だと考えた時、僕の心には奏子さんへの嫉妬心が生まれていることと、麻衣子への気持ちが薄れているのに気がついた。

 

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