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恋愛 / ラブ・ストーリー

オクターヴ上げて奏でる[1] ポロネーズ

   2017年12月11日  

 それから、朝の電車で奏子さんと会えない日が続いた。
 期待が外れた火曜日。憂いが募る水曜日。思いを馳せる木曜日。
 金曜日にはいつもより三十分早い時間から、三十分遅い時間まで、田端駅で奏子さんを待っていたが、姿を見せることはなかった。
 溢れる思いになった土曜日の放課後、僕は上野まで来ていた。
 待ち続けることが出来なくなり彼女の学校まで来るが、彼女とは同じ制服の違う顔ばかりが校門からゾロゾロと出てきて、奏子さんの姿は見えない。
 待ち続けて知っている顔を見つけたのは、彩乃さんだった。
「あれ?彰君、どうしたの。」
 女子高の前で男が立っているだけでも不信な行動なのに、それが知っている人間であれば、不思議に思われるのも当たり前。
 僕は言い訳なども思いつかず、率直に奏子さんのことを訊ねた。
「奏子?帰っちゃったんじゃないかなぁ。……」
「学校へは、毎日来ているんですか?」
「来ているけど、だから何で?」
 誤魔化す、誤魔化さないは抜きにして、質問に答えることが出来ずにいた僕を見ていた彩乃さんに、「どっかで話そうか。」と誘われ、駅前のファストフード店に入った。
 二人で一つだけ注文したLサイズのポテトを、彩乃さんは手を止めることなくつまみながら、「で、で、どうしたの?」と訊ねてくる。
 友達の姉に自分の胸の内を話すべきかどうか、迷う口を誤魔化すようにコーラをストローで吸い続ける。中身が底つきて紙カップの中から『ズズズッ』と音が聞こえると、僕は誤魔化すのを諦めて話をした。
 奏子さんと朝の電車で会うこと、ピアノを聴いて心が揺さぶられたこと、崇から奏子さんの家庭事情を聞いたこと、最近は朝見かけないのが気になっていること。
 それが好きとかの気持ちではないことだけは強い口調で誤魔化すと、彩乃さんはポテトをつまむ手を止めて笑っていた。
「へぇ、……ハハハ、奏子のことがねぇ。彰君も変わり者だねぇ。」
「だから、好きとかそういうのじゃなくて、ただ、……」
「ただ?」
 彩乃さんは、『ほら、好きなんでしょ?言っちゃいな。』と言っているような顔で僕を見ている。
「わからないです、全然タイプじゃないし。それに、あっちも好かれるような態度じゃないでしょ?でも、奏子さんのことを考えると、モヤモヤした気持ちになるのは確かなんです。」
 ペラペラと話してしまう口を止めるように、再び紙カップのストローを吸い込む。中で溶けた氷がコーラ風味の水になっていて、それを吸いつくすと再び音をたてる。話を誤魔化す小道具に迷うと、ストローの先を噛んで間をしのいだ。
「だから、好きってことでしょ?しょうがないなぁ。……」
 彩乃さんは鞄から英単語帳を取り出すと、一枚ちぎって、それに書いたメモを僕に渡した。
「これ、奏子のベル番。私に聞いたって言っていいから。悪者になってあげる。勝手に教えたって知られたら、奏子に怒られるからね。頑張りなさいよ。」
 そこまで体を張られたら、そのメモを突き返す術などもなく、僕は小さく首を動かして受け取った。

 帰り道の電気店で、ポケベルを買った。奏子さんと連絡を取り合うためだ。公衆電話から彩乃さんに聞いた番号へ僕の番号とメッセージを送るが、返信のメッセージは無かった。
 

 

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