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伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 22

   

 運命とも言える少女との出会い。

 マレーネ・リベロは聖書の言葉を口にした。
 

 「おのが身を神のよろこび給う供え物として捧げよ」

 

 

ヴィシェフラド城

 山城とはいえ、中世にはハンガリー王国の王宮が置かれた場所だけあって、上りやすい道が頂上まで整備されていた。少佐も吾輩も馬を下り、手綱を引きつつ緩い坂を上った。

 空気は冷え込んできて、馬の吐く息が長く伸びてすぐには消えない。逆心を起こした王子が幽閉されたと伝えられるシャラモン塔を過ぎ、18世紀中の破壊の跡をとどめる城塞にたどり着いた時には、半月が東の空高く昇っていた。11月中旬の空気は刃のように澄んで冴えわたっていた。

 少佐と吾輩は廃城の前で、馬の手綱を取ったままリベロが現れるのを待った。時折、ふくろうの声が遠くから聞こえ、風が出て樹々の枝が鳴った。やがて細い小道の奥から、蹄の音が聞こえてきた。

 フード付きのローブを纏った女が、カンテラを手に驢馬の背に揺られながら近づいてくる。カンテラの灯りに浮かび上がった顔から、50歳は過ぎているように見えた。女は我々の正面で驢馬を止め、セルビア語で聞いてきた。

「エドゥアルトはどちらかね」

 少佐の顔から承諾の色を読み取って、吾輩は「私だ」と答えた。

「そちらは?」
「私の上官だ。何も心配は要らない。仔細は私から座長に説明したいが、それでいいか」

 女は何も答えず、驢馬に乗ったまま背を向ける。我々は馬の手綱を引いて徒歩でその後に従った。

 小道の奥に、周囲を木立に囲まれた空き地があった。奥の方が焚き火の火でぼうっと浮かび上がり、一人の男が我々に背を向けて炎の前に座っている。後ろ姿だけで、吾輩はマリアーノ・リベロであることを悟った。

 驢馬の女が振り返り、ここで待つようにと吾輩に告げた。そして急ぐ様子もなく焚き火の前の男に近づいていく。女は火の近くで驢馬を下り、男の横にしゃがんで何事かを話しかけた。男はうつむき加減になって女の話を聞いている。男の返答を聞いたのか、女が再び口を開く。影絵になった二人のやり取りを、少佐と吾輩はじっと見つめていた。
 やがて女が我々の方を向き、大きく手を動かして「来い」という合図をした。

 少佐と吾輩は顔を見合わせてから、馬を引いて焚き火の方へ近づいた。リベロのすぐ後ろまで来たとき、案内役の女が我々の手から手綱を受け取り、空き地の縁の木立ちの方へ引いていった。

 振り返った男の顔を見て、吾輩は息を呑んだ。5日前に譲り受けたものと寸分も変わらぬ仮面を男は着用していたのだ。

 焚き火の前に佇む男は両手を頭の後ろに回し、紐を解いて仮面を取った。リベロの穏やかな顔が現れた。
 

 

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