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恋愛 / ラブ・ストーリー

オクターヴ上げて奏でる[2] 悲愴

   2017年12月18日  

 彰からの告白を受けた奏子は、過去の出来事を思い出して素直に受け止めることができなかったが、自分が恋愛対象に見られていると思ううちに、彰を男性として意識しだす。
 しかし、学校を飛び出し、告白も受け入れられなかった彰は、家にも帰らず路頭に迷っていた。

 

 あの人は何を言い出したのかと思って、驚いてしまった。
 男の人に告白されたことも初めてなのに、セックスの話をするものだから、それが普通なのか、異常なのかの判断つかぬまま、電話は切れてしまった。
 このままでは後味が悪いので、あの人のPHSに電話を掛け直したが、電話の掛かりにくい所にいると音声アナウンスが流れるだけだった。
 彼の口から『好き』という言葉を聞いて、私は自分の中にある何かのスイッチを押されたように胸の鼓動が高鳴った。
 あの彰という人を好きになったのではない。そう自分に言い聞かせている。……そもそも、私のことを女として見ている男性がいることに、驚いているだけなんだ。
 男の人を恋愛の対象として見たことが、今までに一度もない。多分、私には、その感情が欠落している。
 中学生の頃、教室の女子達は『誰が誰を好きになった』と、声を潜めて話している時も、そんなことに興味を持たず、その感情に水やりを怠っていた私には、初恋の芽すら出すこともなかった。けれど今、私の心にも種が埋まっていたことに気が付いた。
 しかし、私はその種に水をやり、花を咲かせることはないにだろう。男性のことを好きになったこともなく、交際したこともないのに、セックスの経験だけがある私の身体を受け入れる男性がいるはずがないから。
 
 セックスの相手は柳幹夫という男だった。
 柳さんは音大の三回生で、いつもレッスンを受けている先生の都合が合わない時に、代行で来ていたアルバイト。
 彼の来た日はレッスンと言えるものでなく、私の演奏を一通り聴いて、「いいんじゃない」と言うだけで、指導されることや、お手本に弾いて聴かされることもない。
 だだ、レッスンを受ける私の横に、小柄で細身の男が立っているだけ。
 先生の代行で月に一、二回ほど来るだけであったし、私も、『ひょっとしたら、彼は、私に聴かせるほどの腕前ではないのかもしれない』なんて思っていたから、その日は自主練習くらいに思っていた。だからそんな怠慢な姿勢にも、苛立ちや不満を感じることはなかった。

 

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