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伝奇時代

生克五霊獣-改-5

   2017年12月19日  

 旅のストレスで、我儘になる晴明に葛葉が見かねて忠告するのだが、お互いの気持ちはまだ揃わぬままに、大喧嘩になってしまう。

 伝奇時代小説!

 

 ちゃんと跡取りとして申し分ない人間だったのなら、堂々と生きていけたのではないかと思い続けていた。
 そんな時、ふと耳にした葛葉の存在。側妻の娘にして、術者であり、人に好かれ敬われ、慕われ……。女であるが故、跡を継げないからと自分を利用してその地位を得ようとしているのではないかと。父も、それを望んでいると信じていた。葛葉には期待する。しかし、自分には絶望の目しかない。どんなに武芸にたけようと、ここは武家ではないのだ。
 しかし、実際の葛葉はどうだろうか。自分と変わらない子供であって、そこまで跡継ぎに執着している気がしない。
 今度は、葛葉を気遣って度々休みながら先を急いだ。お陰で、進みは遅かったが晴明の体力は十分だった。
 着いた小さな村の茶屋で、団子を食べた。
「晴明殿は、甘い物はお好きなのでしょうか? 私は大好きです。迷いますね」
「好きなものを食べればいい」
 葛葉が心配そうな顔をした。
「案ずるな、待っていてやるから。それに、また野宿は御免だ。今夜はこの村に泊まるつもりだし」
 葛葉の表情が明るくなった。
 よく見れば、面白い娘かもしれない。ころころとよく表情が変わる。
 一方、葛葉は葛葉で思うところもある。あんなに冷たかった晴明が、少しずつでも優しくなった。それと同時に、心強くなった。この先、何があるかもわからないし、わからないことばかりの旅だけれど、その不安が少しでも軽くなったように思えるのだ。
 葛葉が団子を追加した時、茶店の女将が声を掛けてきた。
「どちらに行かれるんですか? 今夜は天気が崩れそうですけど、明日には晴れるといいですね」
 何気ない世間話の筈だった。
「この先に、良い湯の出る湯治場があると聞きまして、そちらに行くつもりです 」
 言ったそばから、女将の顔が青ざめた。
「それは、お止めになった方がよろしいですよ。湯治場はもう無くなったと聞きますし、それよりもこの先に死人の通る道があるといいます。湯治場は、どうしても野宿でそこを通らないと行けない場所なんですよ。上手く回避できればいいですけど、そうでなければ黄泉に連れていかれてしまいます」
「死人の道?」
「昔からある道ですわ。村の者は、誰も近付きませんよ」
「では、あちらに行きたい時はどうするんです?」
「迂回する道がありましてね、ずっと長くなるけど。ただ湯治場は迂回すると通り過ぎてしまうので、行けないのです。一説にはその湯治場を守るための道だとも言われていますけどね」
 面白いことを聞いたなと、葛葉は思った。
「湯治場までは、ここからあと5日程もかかると聞きました」
 女将は首を振った。
「迂回してから戻る道を通れば、そのくらい掛かるかもしれませんね。もしかしたら、真っ直ぐ行ったとして……死人の道を抜けるのにそのくらい掛かってしまったのかもしれませんけど。時折お坊さんが尋ねてこの村に立ち寄られますから、そう言った方が通る道は半々ですしね」
「特に変わらんということか。もしすんなり通れたとしたら、どのくらい掛かりそうですか?」
「そうですね、おそらく二日もあれば」
「そうですか、ありがとうございます。我々はどうしてもこの先に行かねばならりませんので、迂回しようと思います」
「そう、野宿になってしまいますよ。お止めになった方がよろしいと思いますけどねえ」
 そう言いながらも、女将さんは迂回ルートを教えてくれた。
 晴明から、ため息が出た。また、野宿か。この先もずっと。そう考えると、うんざりしかしない。
 いっそ、母富子が言うように、葛葉を殺してしまえば全て切り上げて家に帰れるんじゃないかと思った。
 が、いや、だめだと頭を振る。
 茶屋で代金を払うと、今日泊まる旅籠を探した。シーズン的なものなのか、すぐに見つかった。特に他の客もおらず、のんびりできそうだ。1番良い部屋に夕餉の卵と鰻を用意するよう伝え、同時に湯浴みの準備と洗濯もさせた。
 それを黙って見ていた葛葉であったが、これでは帰る前に金が底を付きそうでならない。
「晴明殿、差し出がましいようではございますが、もう少し節約なさった方が……」
 葛葉と晴明は別に部屋を取った。それも、晴明からの申し出だった為だ。葛葉は1番安い部屋に、雑炊を頼んでいた。

 

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