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伝奇時代

生克五霊獣-改-6

   2017年12月21日  

 葛葉の死を見届ける、その目的を果たせそうにない晴明。
 次第に晴明に惹かれていく葛葉ではあるが……。

 伝奇時代小説!

 

 昨夜の事を反省する葛葉とは逆に、晴明は拗ねたように目も合わせずに彼女から顔を背けたまま。気まづい雰囲気の中、雨宿りも兼ねて昨日と同じ茶屋に入った。
「晴明殿、その……昨晩は、申し訳ございませんでした。私もつい腹が立ってしまって……」
 晴明は、まだ熱い頬に触れた。じんじんする。同時に、女子に手を上げた事を、晴明なりに反省していた。
「痛みますか?」
「まあ、いい平手打ちだったよ」
「診せて貰えませんか?」
 晴明は冷めた目で葛葉を見つめるも、左頬を押さえる手を退けた。
 昨晩、最初に殴ったのは晴明の方である。葛葉を落ち着かせようとした程度だったから、そんなに力を入れたつもりはなかったが、多少頬が赤くなっていたのは確認していた。それが、晴明と違い綺麗さっぱり跡形もなくなっているわけで。
 葛葉が晴明の腫れた頬に手を伸ばすと、触れたその手が熱を帯びた頬にはひんやりと感じられた。それはほんの数秒の出来事で、先程までじんじんした痛みと熱を持っていた頬は、嘘のように元に戻った。
「これで、もう大丈夫ですよ」
 自ら触れても、痛みも熱もない綺麗な頬だ。
「これが噂に名高い治癒の力か」
「結果的にそうなっただけです。この力でどうこうなろうと思った訳ではありません。ただ、私の力が少しでも人助けになれればと思っただけで。そうすれば、少しは母上が救われるかと思っただけの事」
 葛葉が人を救えば救うほど、晴明が傷付いて来たなど、彼女に想像できるはずもなかった。そして、散々自分を苦しめた力に救われる皮肉にあうとは晴明も、予想だにしてこなかった。
「貸しが出来たな」
 やはり素直にはなれない。ぽつりと呟いた。
「そんな! 第一、その傷は私が作ったものですし」
「先に手を出したのは俺だ」
「それは、私が……!」
 葛葉の話を聞かずに、晴明はお茶代を払うとすたすたと歩き出した。いつの間にか、雨は止んでいた。
「先を急ごう。迂回ルートだったな」
「迂回せずに進めば、2日程で着くようですし、これ以上野宿もお辛いでしょう。真っ直ぐ進んでみませんか?」
 昨晩の晴明との喧嘩、葛葉は葛葉で反省していた。葛葉にも配慮が足りなかったと。
 言い方を、もう少し改めるべきなのだが、彼女にはまだまだ学習が足りない。
 晴明が歩みを止め、冷たい目で振り返る。
「別に。今更構わん」
 坊ちゃん扱いするなと、晴明は思った。
「あ、けど食糧の事もありますし」
「では、山賊が住む場所故の死人の道だったらどうする?」
 葛葉を見殺しにするのも目覚めが悪い、ましてや庇うなど以ての外だ。
「やはり、迂回ルートですか……」
「賢明だろうな」
 晴明は、再び歩き出した。
 迂回ルートを行けば5日も掛かるそうだ。ましてや、葛葉の足だと+1日は必要だろう。聞けば、迂回ルートの途中に一応小さな村はあるらしい。天気が崩れない事だけを祈りたい。
 若干ぬかるんだ山道は、足元がよく滑るので、どうしても互いに歩みが遅くなる。日が随分と落ち始めた所で、野宿を決めた。しかし、まだ雨水を含んだ土も葉も健在で、到底野宿など出来そうもない。晴明独りなら、木の上で寝るか……と上を見上げるも、進んだ先は村より雨が激しかったのか葉の水が十分すぎる程溜まっている。
「浅はかだったな。もう1泊してこれば良かった」
 しかし、この先はまだ長い。同じ事が何度も起こらないとは限らない。
「少し、この辺りを乾かしましょうか」
「は? そんなこと出来るのか?」
「はい、炎を司る朱雀の力で」
 皮肉を感じるが、意地を張ってる場合ではない。
「やってみろ」
「はい」

 

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