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伝奇時代

生克五霊獣-改-9

   2018年1月4日  

 晴明も葛葉も、言葉を失うしかなかった。なにを言っていいのか、わからない。
「村人の中には、この村を好んでおりながら、逃げ出した者も数多くおります。この一件が片付いたならば、その者達を呼び戻し、村をまた盛り立てたいのですがね」
 晴明がふと思い出した。
「母上が言っていた魑魅魍魎を呼び寄せる薬草というのは?」
「ああ、富子さんは煙草を薬にしてお使いでしたから」
「では、今鬼はどうなっているのですか?」
「満月と新月の夜に、この村に現れますよ。封じられた奥さんを探し回りながらね」
 ここで、再び葛葉が口を開いた。
「富子様が言うには、父上が祠にその奥さんの鬼を封じたが、夫の鬼が祠を壊して封印を解いたと聞きました。奥さんの鬼を探してるというのは、どういう事なのでしょう? 奥さんの鬼は、いったい何処へ行ってしまったというのでしょう?」
 泰親の笑いが、不気味に浮かんだ。先程までの余裕のある笑いではなく、妙に気味の悪い重い笑みだった。
「確かに、法眼殿は鬼を退治することは出来ず、封印するしか出来ませんでした。5つの祠にそれぞれ五行の力をやどし、結界によって封じたのですよ。つがいの鬼がそれを破壊し、本来なら先の鬼が蘇る筈でしょう? それが、鬼の姿はなかったのです。本当に封印されていたのか……はて、消滅してしまったのか……」
「わからぬ、という事ですか」
 泰親は、こくりと頷き、酒を啜った。
「ですから、先の鬼の事は後程でいいのです。先ずは、現れる鬼をなんとかしなければなりません。幸いにも、明日は満月」
 泰親はそこまで話すと、並べられた料理を2人に勧めながら、自らもたいらげた。この村でこれ程までに贅沢が出来るのか、と言いたくなるほど、料理は絶品だった。
 その後、泰親は2人にゆっくり休む様に伝え、式神に離の来客用の小屋を案内させた。かつては、温泉宿として使われていた場所らしい。綺麗に整えられ、整理され、温泉までもが湧き出ていた。
 小屋に着くと、晴明は早々に風呂へと向かった。湯加減も丁度良く、芯まで温まると疲れが吹っ飛ぶ気がしたが、やはり気のせいだったようで。部屋に戻ると、今までの疲れがどっと押し寄せ酷い眠気に襲われた。
「晴明殿、寝支度をしておきましたよ」
 葛葉なりの気遣いだった。どうせ何れは夫婦になるのだ。少しでも妻らしい事をせねばと思った次第だった。
「ああ」
 晴明は、布団の上にどっと腰掛けた。洗い立ての髪から、良い香りがした。
 
 

≪つづく≫
 

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