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風刺 / ユーモア

モラトリアム・スコア 「無職」でいるために

   2018年1月5日  

「ああ、やっぱりだ。うまい手だよなあ」
 一方の栗島は、専門学校らしくない学科構成を聞いた次の瞬間には、学校側の「真意」が見抜けるほどに、内情を知ってしまっていた。
 もっともこの程度の知識は、「ベテラン」の連中なら完備事項である。
「全部特別な設備が必要ない学科だ。大学からのお下がりで使い回せるし、教員にしてもそうだな。グループには大金が入り、職員には割の良いバイト先が。受験勉強をせずに学歴も得られる。ま、三方得ってやつだな。入ってくる連中の先々を考えなきゃ、だけどな」
 菅井の口調に含まれた毒は、栗島の内心を代弁してもいた。
 他人と競ってもどうにもならない部分があるのは知っているが、相当ハードに「うまくやって」いる連中のことを考えると、なかなか平静ではいられない。
 特に、新年度からの様々な決め事が表面化してくる今となってはなおさらだ。
「誰になるかね、『新入閣』組は。まさか俺や菅井ってこともあるまいが」
「はは、まさか。D6の桑原か松崎だろう。あの二人はずっと待機組やってたし、実績もコミュ力もある。特に松崎がこの前出したペーパー(論文)、今時のアニメの論評だったろ? 若い子への講義向きだろう」
「論破されなきゃいいがね、若いファンには勢いがある。もしやってダメなら、高岡が割って入ってきちまう。教壇越しに奴と向き合うのは、誰にとっても不幸だろう」
 と、無遠慮な会話を楽しみつつも、二人のチラシを折り込み、パンフを封筒に入れる手さばきは、まるでプロの作業員のように素早い。
 もっとも栗島は今月だけでこの作業を三十時間近くこなしている。手慣れるのも当然だった。
「まだ、残りはあるか?」
 栗島の問いに菅井は、少し自信なさげに頷いた。
「家賃と光熱費ぐらいはな。最悪、水道の方は部屋から出て何とかするし」
「あさっての蔵書整理、多分日をまたぐってさ。ボールペンの方終わったら行くといいぜ。シフト入ってるのM2までの連中ばっかだし、多分たっぷり残ると思うから」
「サンキュ。……そうそう、仏文の塩崎教授がこぼしてたよ。来週の英検の監督を代わって欲しいとか何とか。酒でも持って行ってみればどうだ?」
 二人は忙しく手を動かしながらも、頭と口は別の話題に向かっていた。より強力かつ効率的にポイントを稼ぐには、あらゆる点で無駄は認容できない。
 たとえ数パーセントの非合理でも、作業を積み重ねていけば、やがてそれは覆い難い差になってくる。
 誰と勝負しているわけではないが、一ポイントでも多くというのは、栗島たちのような「タイプ」の共通認識である。

 

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