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伝奇時代

生克五霊獣-改-10

   2018年1月9日  

 ズシーン……
 ズシーン……

 闇と静寂の向こう側で、不気味な音が響く。
 そして、葛葉が気付いた。
「あれは、鬼ではない。式神の類だ。誰か、操る者がいる筈だ」
 晴明が、はっとした。暗闇に隠れて、泰親の顔が曇る。
「……ほほう。おかしな事を仰いますね。この村には、私以外おらぬ筈ですが?」
 だが、葛葉は自信ありげに答えた。
「いや、間違いない。魑魅魍魎のような邪気がない。霊体のような、霊気ではない。強いていえば、生きてる者に近いのだ 」
「では、気の違った人間と?」
「そうでもない。なんというか、生きている者と同じ霊気を持った人形のようなのだ」
 これは、予想以上に厄介だ。と、泰親は顔を歪めた。それを葛葉は、見逃さなかった。
「どうされましたか?」
「いえ、誰が何の目的で。と、思いましてね」
 なんとか、誤魔化した。

 ズシーン……
 ズシーン……

 と、響く足音はこちらに向かってくる。
(では、葛葉。その腕前、とりあえず見せて頂きましょうか)
 今夜は殺せない気がした。だから、泰親は葛葉のその実力を見てみる事にした。
 目の前で足音が止まると同時に、ギラギラと輝く満月の光が隠されるように暗くなった。黒い巨人のような影が3人を見下ろしていた。
「これが鬼か」
 呟きながら、晴明は思わ腰を抜かして尻餅を付いた。
 3人を覗くその鬼の顔は、まさに化け物。暗闇でも分かるどす黒さに、血走ったようなギョロギョロと動く目玉が付いおり、蒸気の様なものが見える口には不揃いで鋭い歯が伸びていた。そこから流れ落ちるヨダレと悪臭。半裸に、動物の皮の様なものを纏ってはいるが、その処理も雑なので臭くて汚い。
 鬼の手が動くと、その鋭い爪が夜空に向かって振り上げられた。
(逃げねば!)
 と晴明が思うと同時に、それは振り下ろされ座り込みながらも瞬時に交わした晴明の横を掠めた。
「晴明殿!」
 葛葉の悲鳴にも似た声が響くと、その声に反応して鬼が葛葉の方を見た。
「さて、葛葉さん。如何なさいますか?」
 葛葉は泰親のからかいを無視して、口の中でもごもご呪文のようなものを唱えた。
 直後、鬼に落雷が落ちる。
「ほほう。なかなか、乱暴ですね」
 丸焦げになった鬼が倒れると、その身体はサラサラと砂のように崩れて消えた。
「やはり、傀儡か。このような物、観勒殿が破れないことも無いとは思いますが……。私の買い被りすぎでしょうか?」
 泰親は、少しカチンときた。が、ここは堪えた。この娘は気に入らない、寧ろ嫌いだと思う。早くも、何やら勘づいている。
「おやおや、手厳しいですねえ。ですが、これが傀儡であるならば、主人が見つからない限りまた現れる事でしょう。私には出来ませんでしたが、葛葉さんにはその主人を見つけることが出来るのではないでしょうか」
 葛葉の言葉が止まる。暫くの間を置いて、泰親を睨みつけながら「そうかもしれませんね」と言い放った。
 
 

≪つづく≫

 

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