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伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 25

   2018年1月9日  

 
 こうしたお祭り騒ぎの中、市参事会員令嬢のシャルロッテが姿を見せなくなった。何かあったのかと思い始めていた7月も末のある日、三週間ぶりに彼女の姿を客席に見て、いつになく吾輩の心は高揚した。舞台を終えて衣装を着替えてから、吾輩は客席に残っていたシャルロッテに近づいた。

「どうもお久しぶりです」
「ご盛況のようですわね」

 ブロンドの髪を束ね、肩に薄手のショールをかけた夏服のシャルロッテは、前日も来ていたようなさりげない素振りで吾輩を迎えた。彼女の瞳の色はブルーというより黒に近く、それがまた不思議な親しみを感じさせるのだった。

「お陰様で。少々騒がれ過ぎかもしれませんが」
「いいえ、この勢いでドイツ中の評判になったらよろしいんじゃなくて?」
「いやー、これ以上は勘弁してもらいたいですよ」
「でも本当に賢い妹さんですわ。お兄さんと呼吸がぴったり合っていて」
「そうでしょうか? 生意気で手を焼いてますけれど」

 不意に、参事会員令嬢は目を伏せて押し黙った。気分を害することでも言ってしまったかと思ったが、何も思い当たらない。
 シャルロッテが顔を上げ、切羽詰まったような視線を向けてきた。

「実は……」
「どうなさいました?」
「今日はお暇乞いをしに来ました。来週、嫁ぎ先に出発しますので」

 一息に言って、シャルロッテは苦しげに胸を上下させていた。

「それは……おめでとうございます」
「めでたいことですのね。もちろん結婚というのは、世間ではめでたいことでなくてはなりませんけれど」

 人生の転機を前に、立ち騒ぐ心のやり場がないのか。あるいは何か、もっと込み入った事情が……? そうだとしても、こちらから立ち入ってよい筋合いでもない。

 シャルロッテは低い声で言葉を続ける。

「私にとっては、二度目の死と同じなんです」
「え」
「一度目は3歳の時でした。それから今、13年経ってもう一回死ぬのです、私は。シャルロッテ・ミュラーが今度はシャルロッテ・フリーゼルになる。……米国なんですのよ。会ったこともない相手のところへ」
「それはまた、遠方に。大変ですね」

 参事会員令嬢は目を天井に向けながら、「いいえ、務めですから」と頭を左右に振った。
 

 

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