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伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 25

   2018年1月9日  

 
 不意に、マレーネの声が聞こえた。

「ミュラー様。お迎えの馬車が来ておりますが」

 いつの間にやら、マレーネが吾輩たちの後ろに立っていた。泣きそうな目で見ていたのに気づいたが、吾輩は笑ってごまかそうとした。

「まだ寝てなかったのか。明日学校は早いんだろ」
「私、子供じゃないのよ。学校には勉強を教わりに行ってるだけで」
「そうだったな。……ではシャルロッテさん、またどこかでお目に掛かれることを祈っております」

 シャルロッテはうつむいて、ハンカチで目元を拭った。

「いいえ。勝手にお聞き苦しい話をしてしまったことを、どうかお許しください。ヴァイツェネッガーさんの今後のご成功を祈っております」
「ありがとう」

 吾輩は右手を差し出し、シャルロッテの手を握った。

 シャルロッテが馬車で去るのを、吾輩とマレーネは手を振って見送った。

 一瞬、シャルロッテが窓から顔を出して振り返った。その大きく見開いた目に、吾輩はたじろいだ。

 近くに馬でもあれば飛び乗って後を追い、馬車と並走しながら「どうなさいました?」とでも尋ねるべきだったのだろう。しかしそんな行動を起こす暇も与えられず、参事会員令嬢の顔は窓の奥に引っ込み、馬車は速度を上げて遠ざかった。
 
 

 馬車が見えなくなって、マレーネが吾輩の手を握りながら言った。

「シュティヒが、ここ(フランクフルト)はあと2カ月で切り上げるって」
「そうか……」

 結局、マレーネは半年足らずで転校を余儀なくされることになる。幻術師のマレーネは学校で人気者の地位を不動にしていたから、心残りも多いに違いない。

「次は、ハンブルクかベルリンじゃないかって」
「お前はどっちがいい?」
「ベルリンは帝国の首都でしょ? 私、大都会の方がいい。ハンブルクってずっと北だから寒そうだよね……ねえエディ」
「どうした」

 マレーネの手に力がこもった。

「そのうち、私たち独立しない? 『ヴァイツェネッガー兄妹』で盛大に売り出すの! そしてドイツだけじゃなくてパリやロンドンにも行って、たっくさんのお客さんを楽しませてあげるの! 私たちならできるよ!」
「おい、お前なあ!」

 マレーネは利発だった。だから賢さを恃んで、まだ子供なのだという配慮がおろそかになったのは否定できない。

「評判を聞きつけて、また人さらいたちが来てもいいのか?」
「平気よあんな奴ら! 私たち二人でうんとひどい目に遭わせて追い返してやればいいのよ」

 だが、吾輩はリベロから仮面を受け継いだ者なのだ。リベロがスペインやフランスで盗賊を働いていたことを考えれば、パリの手配書はドイツの警察にも回っているだろう。こんな状況だからこそ、継承者が使命として「遺産」を積み上げる手段が、危険な犯罪行為だけに限られる必要もないのではないか?

 兄妹の芸人として盛大に売り出す。熱のこもったマレーネの言葉が、吾輩のささやかな希望を鼓舞したのは確かだった。ほんの半月程度の、真夏の儚い夢だったとしても。
 
 

≪続く≫

 

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