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伝奇時代

生克五霊獣-改-11

   2018年1月11日  

 時は、随分と遡る。富子には元々、法眼より先に恋仲の男がいた。それが、泰親である。2人は幼少の頃から知った、所謂幼馴染であった。
 富子も泰親も、この村で育った。富子も泰親も生まれつき霊力が強く、幼少の頃から共に不思議な体験をする事が多かった。その力も身体が大きくなるほど強くなり、案じた互いの両親は2人を湯治に訪れた力の強い僧の弟子にする事にした。その力の強まり方も、この村の霊泉や薬草のせいだと悟った僧は、子の為にもとその力の使い方をしっかり教えた。
 1人前になった2人が村へと戻ると、そこにかつてあった筈の村はなかった。聞けば鬼に荒らされ、両親を含めた村人の多数が喰い殺されたのだという。
 悲しみと怒りに潰されそうになりながらも、富子はその身を挺して鬼を封じ込めた。その代わり、霊泉や薬草の寄せ付ける魑魅魍魎から村を守る仕事を泰親が請け負っていた。
 富子が法眼の元に行く事が決まった晩の事である。
「富子さん、本当に行ってしまわれるのですか?」
 法眼より、互いの気持ちは強かった。
「はい。あの方が、私を解放して下さったのですから、行くしかありませんので。毎日文を書きます。貴方も私に毎日文をください」
「富子さんは、法眼殿を愛していると? 私の力が足りずに、貴女を縛り付ける事しか出来なかった自分が情けなく思います」
 富子は、泰親の胸に顔を埋めた。
「私が慕っているのは、貴方だけですよ。泰親。私は別の目的で、あの方の元に行くのです」
「というと?」
「あの方の力は強い。そして、あの方には代々の領地がある。私がこの村の為に生まれ、生きて死ぬ運命と同じように、あの方もその領地の為にいるそうです。ですが、私とあの方とで違うのは私達がどう頑張っても所詮は人柱。その命は、紙切れのような扱いなのでしょう。あの方は、全ての民がその種を残そうとする。私は長い人柱の毎日で、この儚い生命と人の身勝手さに嫌気がさしたのです。私だって、子を持ち、その種を残していきたい……」
「では、私と残せばいいではありませんか!」
 富子は首を振った。
「それは、次の人柱を産むのと同じこと。人柱の為に、子を産むなど嫌です」
 泰親は、富子を引き離しながら顔を伏せた。
「私は、法眼様の元に行き、正室の座に着きます。そして、子を産み、跡継ぎとし、法眼様を亡きものにした後、泰親と子を設けて幸せになります」
 そうか、と泰親は思う。富子は、平穏でありたいのだ。この頃から、村の巫女としての荷を背負わされ、何かあったら死ねと言われた。友達も仲間も、皆富子のお陰で平穏で幸せな毎日を送っていたから。鬼を封じ込められなかったら、生贄になれと言われ、封じ込めたら生きた人柱を強いられた。自分は、彼女に着いて来たが、その哀しみを受けることも出来ないほど、自分は自分で村人の平穏の為に利用されてきたのだ。
「泰親、その為に協力してくれますね?」
 これは、富子の逆転計画の始まりだった。
「富子、貴女が望むのなら」
 
 

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