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伝奇時代

生克五霊獣-改-11

   2018年1月11日  

 晴明と葛葉は小屋に戻ると、晴明は酒を煽った。もはや自棄酒だった。
「晴明殿、そんなに一気に呑まれてはお身体に触りますよ。何か、肴を用意致しましょうか」
 気が利くのか、泰親は小屋に毎食運ばれる食事以外に、酒と肴をいつでも楽しめるように置いておいてくれていた。酒も、上等な品だった。自棄酒でなくとも、ぐいぐい入る。
 晴明は、葛葉の問い掛けを無視して、ぐいぐい呑んだ。
 随分呑んだところで、肴を用意し、運んできた葛葉に声を上げた。
「お前は、俺が情けないなどと笑っておるのだろう」
 絡み酒だとも分からず、葛葉は禅を置くと頭を下げた。
「そんな事、微塵も思っておりません」
「しかし、お前はあの化け物の前で平気だったではないか」
「それは、私が多少なりとも先立ってそれが傀儡だと分かっていたからですし。それに、盗賊に襲われた時は私だって恐ろしくて腰を抜かしておりました」
「ほう、その時の仕返しか」
「そんな!」
 晴明が葛葉に顔を近付けた。
「葛葉、お前は何が恐ろしい。お前が恐ろしいと泣いた時に、今度は俺が笑ってやろう」
 好意的な言葉でもなければ、態度でもない。それなのに、近付いた晴明の顔にドキッとした。恋より、少しだけ怖いと感じた。
「何が恐ろしい?」
 葛葉が黙っていると、晴明の強い力が両肩に伝わり、一気に後ろに倒された。軽く葛葉が頭をぶつける程に。馬乗りになった晴明の抑える力から、葛葉は動けずにいた。
「わ、若様。何を? こんなつまらないこと、おやめください」
「お前は、俺の嫁になりたいのだろ。ならば、俺を慰めてもらおうか」
 葛葉の頭が、一瞬にして真っ白になった。
「幼き頃から、お前の存在に屈辱を受け、馬鹿にされ、日陰の生活にうんざりしていたら、その元凶と今度は夫婦等。その元凶と少しでも分かり合おうとしようものなら、また屈辱。俺は一体、何なのだ?」
 ひと通り捲し立てたお陰で酔いが覚めたのか、晴明はふいっと葛葉を解放した。そして「部屋に戻れ」と、告げた。
 葛葉は何も言えず、こくりと頷き部屋へと急いだ。
 晴明は独りになると、今度は静かに酒を煽った。
 知らなかったと葛葉は、泣き声を噛み殺しながらはらはらと涙を流した。初めて、晴明の痛みと自分の愚かさを知った気がした。持って生まれた質だから、誰のせいでもないのだけれど。どうすればいいのか、答えが出ない。せめて、せめて自分の力を晴明に与える事が出来たなら、何かが変わるのだろうか? しかし、積年の嫉妬は長い年月を掛けながら怨みへと変わってしまった。自分が受け入れられる事は、難しいのかもしれない。
 晴明が、本当は優しいのを葛葉は知っている。だから、余計に辛かった。
「私の、せいなんだ」

 翌朝、変わらず式神が運んでくる食事を、葛葉と晴明は別々の部屋で食べた。晴明は、飲み過ぎたせいで少し頭が痛かった。何か薬はないかと式神に尋ねると、式神が朝餉に薬膳粥を用意してくれた。
 葛葉と違って、晴明に昨晩の記憶が疎らにしかない。葛葉が顔を見せないのを気にして、晴明は彼女の部屋の前に立った。
「葛葉殿、昨晩はすまなかった。何やら飲み過ぎたようで……その、あまり記憶もないのでな。勘弁してくれないか」
 返事がない。ので、晴明は溜め息混じりに踵を返した。
「ごめんなさい」
 と、葛葉の小さな声が障子の向こうから聞こえた。
 
 

≪つづく≫

 

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