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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・2

   2018年1月12日  

 数日が経過して周囲の人たちは俺の悲しみを理解してくれた。かけずらい声をかけてくれる人々に感謝を述べて、仕事を辞めることにした。

 最後にみんなは肩を軽く叩いて同情した。一つひとつの手のひらが軽かった。他人事で同情はするが自分でなくてよかった。おまえがどこでこれからどうなろうと関係はない、今日で見切りだ。と言われているような気がしてならない。

“俺の気持ちを誰一人として聞く耳はないやつらばかりだった”。

 そこまで俺は、俺自身が錆び付いてしまっている。

 辞職願を提出して有給が残っていたため今月いっぱいで退職を受理してもらうことを快諾してもらった。世話になった先輩社員や同僚たち、そんな人たちに別れの挨拶もなしで一人の社会人がその場から消えていった。

 年が明け、沙良を失ったことで労働意欲も失われてしまった。次の仕事のことなんてどうでもいい。

 会社関係者のメール、着信が残っていたがすべて無視した。相手にしていられない。俺にはやることがある。

 スーパーマーケットでLLサイズのビニール袋三つ分の酒を購入して帰宅した。

 とんでもない重さになった。

「これでいい、けっこう値はいったが…」

 俺の思考の中を支配し満たしているのは、今から自殺をすることだ。

 下準備は万端だった。アルコール中毒を狙ってのことだ。彼女を思い出しながら泥酔してそのまま中毒死する。

 彼女のいない人生なんて酔生夢死だ。

 缶ビールのプルタブを指先でひっかけて開けた。弾けるような音を鳴らして白い泡が少し飲み口から飛び散った。飲む、飲む、のむ、呑まれる…、ビールが潤いを増しながらも口腔と食道は爛れるように焼けていく。おかげで狂うように悲しみと闘った。どれだけ涙が流れたかわからない。顔は真正面を向けずにうつむいて世界を見ることを拒む。現実から少しでも目を背きたい。

 酔狂も何々上戸とあるが俺はこのときばかりは泣き上戸に染まっていた。悲しみを乗り越えて次のステージに立つ気にすらならない。主役でいる自分は舞台から降りて引退する。この先の人生をどうやって生きていけばいいかわからない。もう抗う力すら残っていない。気力、精神、肉体も腐敗する。復讐したい気持ちが生にしがみついている。素直な感情だ。自殺ほどみっともない死に方はない。交通事故死も同じだ。どちらも気をつければ回避できる。それなのに死を考えるとその前者を選択している。

 俺は右手を見ていた。指先だけで崖につかまり身体は奈落の底へ落下しないようにぶら下がっている。そんな状態をイメージしていた。

「この手を離せば崖から大海原へダイブできる、か…しがみつく理由はなんだ?」

 海の藻屑になるのもいいだろう。

 自殺の連想が脳裏をよぎったが俺はがっかりした。

「はぁー、あ~あっ」深いため息を吐いた。

 なんといっても酒で自ら毒死することができるわけがない。情けない。ヤケ酒で死を望んで飲み続けるのもよく考えればみっともない最後だと思った。

 

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