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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・2

   2018年1月12日  

 酩酊した視界は歪んでいたが、以前彼女と過ごした写真をパソコンに取り込んでいたのを観賞している。学生時代からの彼女が変化していっている。出会ったときは幼い感じだったが大人になっていく姿をこうして一枚一枚みていると不思議と口もとが緩くなる。微笑んでいた。でも眼からは涙がこぼれていた。

 もう付き合いは長く、比例して思い出も多い。

 走馬燈のように記憶が思い出されていく。自分だけの前頭葉というスクリーンにフィルムの海馬投影機が映像を映していく。

「なんと恍惚たる映画だろうか。ここまでのヒューマンドラマは観たことがない」

 出演者は一人、客席にいるのは俺だけだ。感動しているのも俺。ほかは誰一人としてみることはない。

 陶酔して自画自賛している俺は、この映画はアカデミー賞を獲ると自負している。過去を遡っていくように未熟な自分の容姿と稚拙な態度やバカな恰好の態度をとっている写真が次々移っていった。

 マウスを指先でいじりスクロールしていく指が止まった。一枚の写真に目が止まった。学生時代の写真だ。同級生が数十人写っている。そこには俺と沙良も写っている。

「ほかのもあったか、懐かしいな、沙良と出会った大学時代…、色褪せない青春期だ」

 俺は笑みを浮かべ泡のなくなった缶ビールの残りを口にふくんだ。そのときだった。ある一点に眼が止まった。年の離れた一人の男性を凝視していた。何かを思い出そうとしている。虚ろなまぶたが羽のように軽くなり瞳孔が開いた。

 真っ暗な世界に針先ほどの光の点がともっていた。それは、もしかしたらという淡い期待を呼び起こした。

「先生…」

 ぼんやりとした世界が広がっていく。取り戻せる方法がないか…ない、と決めつけていた。浴びるほどの酒を飲んで吐き散らした内容物。足腰はガクガクに揺れて身体のバランスも保てなかった。意識は途切れて卒倒した。

 真っ白な世界は俺を凍てつかせていた。頭がすっきりとした状態になれるもんだ、と目が覚めたときに思った。空の缶ビールが数十本も転がっている。何本かは潰れていた。イラついて投げ飛ばしたのか、踏み潰したのかもしれない。つまみのようなものは何一つとしてテーブルの上に置かれていない。

 胃の中はアルコールで満たされていただろう。固形物がいっさいないのはまさに中毒死を狙っての飲酒だ。だが本気でアルコール中毒死を考えた結果がみっともない結末となった。ただの二日酔いの吐き気と頭痛で終わった。

 散らかった部屋を目の当たりにして本気で考えたことが前頭葉に浮かんだ。冷静になった自分の目が鏡の中の自分と合った。

 ひどい顔だ。見ているだけで唾を吐いてやりたくなる。鏡の中の俺は犯罪者のように青白く頬がこけていた。深呼吸をしてから顔を洗った。
 真冬の水道水を頭から浴びた。二日酔いにはちょうどよく冷やされた頭は幾分すっきりしたようにはっきりと目の前は広がった。おかげで確かな記憶が呼び起こされた。

 固有たる存在を思いだした。

「俺はツイている」

 身だしなみを整えて大学時代の恩師に会いにでかけた。ある研究に没頭しているちょっと近寄りがたい人物でもある。要するに変人だ。

「そりゃ忘れるよな、バカげた天才のしていることなんて…」

 天才と認めているその恩師に俺の落胆した面持ちを晴らしてもらいたい。年末年始ずっと腸煮えくりかえりそうなほど業火に滾っていた気持ちを払拭してくれる唯一の存在だ。頼りたくない相手に握手を求めるのは実にこわばってしまうが、藁にも縋る希望がそこにはある。あってほしいと切望している。

 太陽の日射しがまぶしくて目が眩むが、俺にエネルギーを補給してくれているような気がして身が締まる。

 かつてないほどの一歩が玄関から踏みだされた。これほど足の裏に重みを感じたことはない。
 
 

≪つづく≫

 

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