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青春 / 成長

メイク・アップ・レイディ 第一話 みなしごミランダ

   2018年1月25日  

それは、のちにレイディと呼ばれる伝説のショーガールがいかにしてショービジネスという世界にはいったかのお話。
20世紀初頭、アメリカ。
貧しさのために売り飛ばされたミランダは、〈フォーチュン劇場〉で見習いとして働き始める。ある日、老教師・ラングストンに見い出され、人生の選択を迫られる――。

『メイク・アップ・レイディ 第一話 みなしごミランダ』開演

 

 
「知性と気品を保ち続けなさい。そうすればミランダ、君の願いは必ず叶う」
 先生はいつもパイプをくわえて、あたしに教え続けた。
 この世界――ショービジネスの世界で生き残るすべを。
 あたしを見るときの宝石みたいな灰色がかった緑の目のことを今でも忘れない。
 

 ミランダの本当の人生は十二から始まった。
 アメリカのなんにもない田舎町――名前もしばしば間違えられて、〝なんとか町〟で通じた田舎町――に住んでいた。
 農業を営む両親と祖父母。それから下に四人の弟妹。働き者のミランダは、可哀想に、小学校へ行く黄色いスクールバスに乗ることもなく、毎日毎晩、両親の手伝いに明け暮れてた。
 彼女が本当の人生の一歩を踏み出した春の晩、家の裏手の鶏舎で一家の食料になる鶏に餌をやっていたミランダは、なぜだろう、家が気になって、鶏たちが餌を勝手に食べないよう、餌かごを糞と泥だらけの戸棚にしまいながらランタンを手に、戻っていった。
 月も星もない曇りの新月だった。見知った家までの数メートルがまったく知らないなにかに思えて、振り返ったが鶏舎の背後には黒しかなかった。荒野を駆け回ってきた砂混じりの風が彼女にぶつかったが、一歩もよろめかなかった。
「ミランダ、ちょっと……」
 ためらいがちに母に呼ばれて急ぎ足で裏口から入ると、おんぼろ掘っ立て小屋に似合わない身なりのいい男がいた。男はミランダを上から下までじっくり見ると、素早く指を三本立てた。父のおどおどした目がミランダと男を交互に見て、「なんとか、もうちょっと、お願いします」と懇願した。
「ミランダ、こちら、隣の州から来たハワードさん。ええっと……劇場の、ね。ね、あなた」
 母がよそ行きの言葉を使っている。
 このなんとか町ではろくな稼ぎもない。自分を含めて五人の子ども。それから年老いた祖父母が食べていけるだけの暮らしは到底、成り立たなかった。
 さっきの予感が当たったミランダは、おらぁ、売られるんだ、とわかった。わかったからといってどうなるものでもなし、彼女は大人の会話のなかにぽつんとたたずむなにも知らない子どもになった。人に買われる自分はどうなるかなんてまったく考えも及ばなかった。
「じゃあ、四だ。前金で二、残りは劇場に引き取ってからだ。いいな」
 ありがとうございます、ありがとうござますと父は男にこうべを垂れた。自分につけられた「四」がどのくらいこの掘っ立て小屋の家族たちを生き延びさせるか、ミランダにはそれだけが気がかりだった。
「ミランダ、許してくれ」
 許すもなにも、きっと父と母が考えて決めたことで自分の言葉や考えなんぞ誰にもなんにも届かないことをミランダはわかっていた。だから、ただ、「わがっだ」とうなずいた。それしか言いようがなかった。父は心底ほっとした表情で、泣く母を叱りつけていた。
 それがミランダが見た家族の最後だった。
 

 

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メイク・アップ・レイディ 第1話第2話第3話

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