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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・7

   2018年1月31日  

 気が付くと病院で目覚めていた。悲しみの絶望に気絶して搬送された。

 男性の医師が症状を診てくれた。

 俺は沙良のことが気になった。が、その医師の顔が硬直するのを見て察した。

 沙良の死は嘆かわしい。だが、ふとあることに気づいた。

 共通点──
 
 

 前回と今回は場所が違うだけだが、その共通点のおかげで、俺は恩師のいっていた“パラレルワールドは存在しない”ことが明確に証明されたと感じた。

 ということは、何度もやってもタイムトラベラーはただの旅行者。

 運命を変えることはできないのか…

 

 退院した俺は自宅にもどった。どうすればいいかわからずソファにすわりながら両手の中でタイムトラベルを可能にしている球体を転がしていた。

 彼女の死が二度目だというのに悲しみは深くなるばかりだった。内臓をぜんぶ口から吐きだしたいほど気分がわるい。

 そのままソファで少し横になりながらなにも考えないことにした。なにも考えていないと沙良の顔ばかりがよみがえってくる。俺の意識や思考は死の一文字に囚われている。

 沙良への思いと自分が生きていくうえで大切な理想のすべてがぶち壊されてしまったこと、なにもできなかった自分を恨んでいる。こんな現実に希望はない。もはやなにをしても無駄だというのであれば死を選ぶしかない。

「待て」

 俺は自分自身の心から呼びとめられた。それはある閃きが浮かんだからだ。

 ある罪深いことが脳裏をよぎったのだ。考えても答えはなにもでてこない。

 ある男性の声が脳を殴っていた。

『時間はあくまでひとつの川の流れのように上から下へ、過去から未来へ進行するものだ』

 というのが羽場戸先生の見解だった。

 俺は未来では一月下旬に恩師と再会した。無理やり押しかけてタイムトラベルを可能にする球体を無理強いではなくも、強奪した結果になってしまった。

 恩師を手にかけたが、「そうだ、12月25日の今日の今なら──」

 その恩師は生きているというわけだ。

 年末年始なんて羽場戸先生には関係ない。クリスマスやゴールデンウイークやお盆休み、日曜祝日、昼夜も先生には無関係だ。時間に束縛されない羽場戸先生はおそらく今日もまた研究をしているだろう。

「だから自分がいま五十歳を迎えていることを自覚せずに研究しているよな、たぶん」

 奇遇にも、12月25日は羽場戸先生の誕生日だ。

「行ってみるか…、ケーキ好きだったかな」

 俺は上着の胸ポケットに球体を隠した。少し膨らむが、多少猫背のせいか目立つことはない。

「待てよ、いまあの研究室に行ったら、この球体があるんじゃないか」

 直立しながら身動きせずに考えはじめた。

「先生のところに行ったことで、なにか損するようなことがおきないだろうか。未来では自分のこの手でふいではあるが手にかけてしまった。その顔に会いにいくのは少しばかり怖くなってきたぞ。勇気だけで対面できる相手ではない──」

 後ろめたさが否応なく沸いてくる。地獄の亡者が俺の足を掴み引きずり込もうとしているようなイメージだ。

「恨んでいないだろうけど、この球体を俺が所持していたら、さすがの先生も疑うだろうな。これは先生が発明したものか、どこかで発見したものか、はっきりしないまま勝手に使用しているんだからな」

 どんどんひとり言が身振り手振りをくわえて大きくなっていた。

 ちらっと脳裏に浮かんだ。鮮血に染まり床で倒れている羽場戸先生の顔だ。

「あの顔…」俺は不謹慎にも突然、思い出して吹きだしていた。「ちょっと笑えるかも」

 記憶を振り払うように頭を左右に振って疑念の火を吹き消した。予測しても無駄だ。いまとなっては前進あるのみだ。

 昨日今日の惨劇でなにが変わるってわけではないが、踏みとどまるわけにはいかない。いやでも足がまえにでようとしている。無意識かもしれない。もしかしたら気づかないで閃きの種が実ろうとしている。アイディアが咲く可能性があるから恩師のところへ出向く決意ができた。

「やっぱり一度過去にもどるなんて奇跡を体感してしまったら…俺のなかで米粒ほどの期待がどんどん湧いてくる」

 いつのまにか口が動いている。ひとり言が多くなっていることに気づいた。

 沙良を失ったことで孤独な自分を実感しつつある。まるで沙良が対面しているように話しかけていた。

「待ってろよ、沙良」

 

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