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風刺 / ユーモア

ブルーボックスのある家(後)

   

相変わらず一郎の家には良いことが続いた。一郎には大学に編入したら大学院までの身分を保証するという話が出てきたし、花江は大した実績もないのに博士過程に進める感じになり、母も婦人向け雑誌の表紙を飾るモデルになりと、まさに夢のような充実ぶりである。

しかし、何の権力も持たない自分たちがこんなに優遇されるのは異様だと、一郎が自宅を張っていると、常に家の近くにいた何台かの車が走り去っていくのが分かった。

呼んでいたタクシーに飛び乗り、追跡を続けていた一郎は、ある会社の前にたどり着いた……。

 

「よう須崎。今日は野球でも観に行かないか。勉強ばかりじゃ気が滅入るだろ。おっと、そんなにやってないかな、ははは……」
 大学での課題をこなし、データをメールで送ったところで、菅原が家をたずねてきた。
 短大で知り合ったという女友達と、にこやかな将棋仲間を連れている。
「チケットは?」
「もちろん。内野席を取っといた。先輩がタダでくれたんでな」
 と、準備良く菅原が独立リーグのチケットを差し出してきたので、須崎も一緒に行くことにした。
 菅原の友達は気のいい奴らばかりだったし、多分菅原の彼女だろうこの女の子は、見た目も性格も良く、スタイルも完璧に一郎の好みだったからである。
 地元独立リーグに所属する、「東京湾ファイヤーズ」は、いわゆるNPB十二球団に行けるような選手を育てるだけでなく、色々な目標を持つ選手を取る大所帯球団だ。
 そのため、一郎たちの母校からも毎年入団者が数人は出るので、非常に馴染み深いチームでもある。
 地方局の中継は入っているし、最近、一郎の父も欠かさずTVのチャンネルを合わせるようになった。
「おお、今日は酒田先輩が先発だ。五番を打つらしい。年末対策だな」
「そうだろうね」
 百人ほどの観客が集まった地方球場の最前列に座った菅原は、相変わらず元気そうな良く知る先輩の姿に、ほっとしたような笑みを浮かべた。
 ブルペンで投球練習をしている酒田は、一郎たちの姿を確認すると、さり気なく帽子を取って、爽やかな笑みを見せてきた。
 誰よりも熱いところがあるのに、決して周囲に押し付けない彼の表情に、一郎もまた懐かしいものを感じた。

 

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ブルーボックスのある家 第1話第2話

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