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サスペンス

モノクロビオラ 9話

   2018年2月5日  

「……初めまして。倉耶彰久という者です。今日は――」
「知ってます」
「え……?」
「知っています。わかっています」
 そういえばこの子は、櫻庭慧子さんは、僕が加害者だと証言している。少なくとも春菜さんはそう言っていた。
 つまり、僕の名前を知っているのは当然であって……。
「なぜここに来たのかも、知っています」
 まるで、僕の心を読んだかのような台詞だった。僕は、身に覚えのない罪悪感を無視して、この場でやるべきことを淡々と進めることにした。
「じゃあ、いくつか質問させてください。まず、模造線路について知っていますか?」
「当たり前です。忘れられるものなら忘れたいくらいですから」
 その言葉は僕への皮肉の意も込められているのだろうか。
「……じゃあ、その模造線路は一体何なのか、知っていますか?」
「私が知りたいくらいです」
「竹内春奈さんから聞いているかもしれませんが、僕は模造線路やあなたたちに関する記憶がないんです」
「本当に、思い出せないんですか?」
 彼女は、僕が病室に入ってから、一歩も動いていない。それほどまでに、警戒しているのだろうか。それにしては、余裕のある口ぶりだなとも思う。
「思い出せないですね。だからこうして、あなたに会いにきたんです」
 半分は嘘だった。
 僕はそもそも、僕自身が加害者だったということを事実として認めていない。春菜さん対して、思い出す努力はする、とは言ったけど、思い出すようなこと自体が本当にあるのかは、まだ疑ったままだ。
「――そこの引き出しの一番上の段……中を見てください」
 突然、彼女はそんなことを言い出した。そこに思い出すヒントが隠されているのだろうか。なんにせよ、実行するほかないようだ。
 何が入っているのか、という質問はせず、僕は引き出しの中を見た。

 

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