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歴史ファンタジー

東京探偵小町 第十一話「朝まだき」 <2>

   

「すみません、お嬢さん。すみません…………!」
「ねえ、お願い! お願いだから、倫ちゃんとわごちゃんだけは、あたしに嘘をつかないで! お願いよ!!」
「約束します。今ここで誓います。僕らはもう二度と、お嬢さんに嘘をついたりなんかしません」
「りん、ちゃん」
 ようやく顔を上げた時枝の頬に残る涙をぬぐってやり、倫太郎がこくりとうなずく。和豪も床に片膝をついて、時枝に誓った。
「俺もだ、大将。俺と倫太郎と大将のあいだで、隠し事なんてのはもうこれッきりだ。だから頼む、もう泣かねェでくれ」
「ほん、と?」
「ああ」
「約束します」
「…………う、ん」
 せき上げながらうなずく時枝の頭を、和豪がくしゃりとなでる。やがて倫太郎が時枝の手を引き寄せるようにして立ち上がり、すぐ横手にある、布張りの長椅子へと誘った。そして和豪にもそこに座るようにと目で合図し、二青年は時枝を中央にして、事務室の長椅子に腰掛けた。
「逸見先生から、どこまでお聞きになったのかわかりませんが……僕らが知っていることを、今ここで、みんなお話ししますね」
 涙を拭きながら、時枝がうなずく。
 倫太郎は、口を開く前に和豪の顔を見た。「知っていることをみんな話す」と言ったからには、先に道源寺から聞いた犯人の処遇まで、包み隠さず知らせるつもりだった。それに気づいて、和豪も表情を引き締め、うなずき返した。
「この夏、お嬢さんが猫探しに行っているあいだに、道源寺警部と柏田さんがいらっしゃったんです。そのときに初めて聞かされたことも、すべて話します。あまり、いい話ではないのですが」
「それでもいいわ、聞かせて」
 時枝は、隣に座る二青年の手に、そっと手を伸ばした。それに気づいた二人が、冷えてしまった時枝の手を取る。倫太郎と和豪の、それぞれの温かさを感じ取りながら、時枝はまぶたを伏せ、上海で父と外灘を歩いていたときに聞かされた言葉を思い出した。
「前にね……父さまが言っていたの。真実は宝だって。真実には、喜びだけじゃなくて、苦しみもある。知ることにも伝えることにも勇気がいるときがあるけれど、それでも、真実は宝だって」
「僕らも、そう聞かされながら仕事をしてきました。それなのに、一番大切なことを忘れていたんですね」
 時枝は軽く首を振って、話を促した。
 倫太郎は最初から筋道立てて話すべく、朱門が凶刃に倒れた日のことから順を追って話しはじめた。すると、夜明けまでいま少しの薄暗がりのなか、時枝の緊張が倫太郎と和豪の手にじかに伝わってきた。
 倫太郎の話に時折補足を入れながら、和豪は、時枝が帰国した日のことを思い出していた。あのとき、「握手ね」とすました顔で差し出された右手は、こんなにも小さく頼りないものだったろうか。朝まだきの薄闇のなか、和豪は、絆創膏の貼られたままの時枝の右手にそっと目を落とした。
 朱門亡きいま、倫太郎と二人で、この少女をなんとしても守っていかなくてはならない。そんな決意を込めて、和豪は、時枝の手を握る手に少しだけ力を込めた。

 

《つづく》

 

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