幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

異世界ファンタジー

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第40話「旅立ちの海」

   

「私自身が道標となろうと決めたのは、あなたの言葉があったから。だから、ありがとうございました」

~第二章 アグランド編 完結~

『アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編<完結>』
【毎週更新】

第40話「旅立ちの海」

※次回は、前章のあらすじを加えた新章第1話が更新されます。

 

 

***

「私ね、ここで目覚めた時、凄く後悔したんだ」

 隣を歩くシアンの顔を見上げて、私は笑った。彼は私が何の話をしているのかわからないのか、いぶかしげに眉を寄せた。

「後悔って?」
「……私のせいで、たくさんの人の命が失われた。それが耐えられなくて、苦しかったの。私はあの時、ルイスのいない世界で生きていかなくてはいけないことに絶望しか抱けなかった――――……」

 もしかしたら、ルイスとはもう二度と会えないかもしれない。そんな混乱の中、初めは復讐にも似た思いで、国を取り戻そうと誓った。けれども今は――――そうではない。少なくとも、

「でも、アグランドで皆と出会ってわかったの。私はあの日、生かされたんです。この世のどこかで、私と兄様を信じてくれた人達に。だから、復讐だけを糧にして生きていくことはしません」
「俺がお前の立場だったら、無理だな」
「え?」
「とっくに憎しみでおかしくなってるぜ、きっと」
「……何を憎んだらいいか、私はわかってるつもりです」

 それは、人間相手ではない。アース・カーネットは確かに憎いが、それ以上に私は――――。

「私は他の何よりも、この『世界』が憎いよ」

 ルイスは私を傷つけた者を殺すと言った。けれどもそれは間違っている。それでは同じことの繰り返しだ。復讐なんてものに囚われてはいけない。

「だから、私は―――決してこの怒りを忘れない」

 『事件の首謀者を前にしても、今と同じ思いを抱くことが出来るのか』。そう問われたら、私はと答えるだろう。

「真相を暴き、黒幕に罪を償わせ、カーネット王国を取り戻す。そして、兄様に自由に生きてもらいたい。私のことすら忘れて、幸せに生きてほしい」

 それが、今の私の望み。

「だからね、シアン」

 私が次に放つ言葉の意味を、彼は理解してくれるだろうか。

「もし、私がこの望みを放棄したら、その時はあなたが私を止めてね」
「あ? どういう意味だよ」

 シアンになら、
 だが、そう口にしたら、彼は怒るだろう。

「内緒です」
「ったく……相変わらずわけわかんねぇ餓鬼だな。はっきり言えよッ! 気になんだろうがッ!」
「今はまだいいの」

 今はわからなくても、その時が来ればきっとわかるはずだ。その時が私とシアンの別れの時になるだろう。それまでは、決して傍を離れない。

「お前はよくても、俺はよくねぇっつうの」

 呆れた顔で私を見下ろすシアン。咄嗟に笑顔で誤魔化してから、私は彼に手を差し出した。

「ねえ、シアン」
「ん?」
「私はあなたと出会えてよかったと思います。これからも後悔しません。だから、一緒に行こう」
「……! な、んだよ……改めて」

 傍にいて当たり前の存在ではない。傍にいてほしいと願うことに意味がある。

「言いたかったの」
「馬鹿じゃねーの。俺はお前のもんだって言っただろうが」

 私が差し出した手を握ることなく、彼は苛立ち気味にそう言って、先を歩いて行った。

「でもね、私はシアンに主従を求めてはいないのよ……」

 小さくそう溢して、私はシアンの背を追いかけた。
 

 

-異世界ファンタジー
-, , , ,

シリーズリンク