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恋愛 / ラブ・ストーリー

君がいない世界なら、僕は生きていけない・9

   

 窓を覗くと白咲が出てきた。ショルダーバッグを背負っている。俺はそれが気になった。

 しばらく歩くと、裏路地に入っていった。

 俺は気づかれない場所で見ていると、そこにはイカツイ男が二人スーツを着込んで現れた。

 白咲はショルダーバッグから片手で鷲掴みできるくらいの小さい包みを手渡した。

 今度はスーツの男の一人が長方形の包みを引き換えるように手渡す。

 まるでこれは、何かの取り引き現場だ。

 裏の世界を覗き見してしまったように俺は、ゾッと背中に冷たいものが走った。
 
 

 そして、別の日では、白咲の背後に妙な連中が忍び寄るのが視界に入った。

 


 その後も白咲を尾行すると、たびたび例のスーツの男たちと取引をしている場面に遭遇する。いつものショルダーバッグを背負っているときは包みと現金の引き換えに渋谷の裏路地で密約をかわしているようだ。

 会話が聴こえればもっといいが、そこまで近づけない。本部からでてきた白咲はこの日もショルダーバッグを背負っている。

「また運び屋をするのか…真面目に配送業社に勤めた方がいいんじゃないか」

 心の罵声を吐露しながら白咲を一瞥する。すると妙な連中が白咲をつけていた。

「なんだ、あいつら、でもどこかで見た顔だ…」

 二人組の男が建物の隙間から顔を覗かせ確実に視界に入れながら尾行している相手は白咲だと察した。

 本当にどこかで見た顔だ。何度か見た顔だ。どこだ、なにか危機的な違和感が腹の底から広がりつつある。

 白咲が路地裏に入った。すると二人組は走りだした。尾行でもそこまで慌てて走る姿は気取られてしまうと思ったが、構わないのかもしれない。

 路地裏に入ったところを俺も覗くように見る。すると白咲の行く手を阻む三人の男が立ちはだかっている。前方がふさがれたが後方にはさっきの二人組が逃げられないように囲んでいた。

 怒鳴り声が俺のところまで聞こえる。車道を挟み反対側の歩行者通路で木陰に隠れながら覗いていたが、まさかと案じた。

「やっぱりな」

 白咲を囲んでいた五人の男はショルダーバッグを奪った。タコ殴りにして白咲は路地裏のアスファルトの上に這いつくばっていた。奪われたショルダーバッグの中身を開けて確認する男が一人。するとうなずいてほかの仲間とアイコンタクトをとった。欲しいものを強奪に成功した合図だろう。男たちはそのまま去っていった。最後に追いかけられないように一発蹴りを入れて五人組は路地裏の先へと姿を消していった。

 一部始終を見ていたがとんでもない事態に発展することを連想していた。

「おいおい、悪ふざけでも組織の者だぞ、相手は…、その代物を奪って、あの五人は見つかったら最後だ!」

 俺は驚嘆していた。なぜ、いきなり絡み始めたのか。

 白咲は同情されると思うが、そんな生易しい世界ではない。取り引きに失敗したら手打ちは当然。相手側も物が手に入らなかったことで怒りを露わにするだろう。

 もはや白咲に未来はない。そう思ったとき俺の前頭葉にあるシナリオが浮かんだ。

「そうか、白咲が暴徒化したのはこれが理由だ…」そのとき俺の海馬が悲鳴をあげるように鳴いた。

「そうだ、そうだった、あの五人の顔──、思い出したぞ」

 テレビで何度か見た顔だった。クリスマスイヴの翌日テレビに映っていた。

 駅前のスクランブル交差点で射殺された犠牲者の五人の男たちだ。

 つながった。

 犠牲者五名のうち誰かではなく全員だった。不幸にも六発撃ったうちの一発が沙良に命中した。

 神も仏もない。なぜ、あれだけごった返しているスクランブル交差点で無関係な一人が沙良でなければならないのか。俺でもよかったはずだ。もし俺なら致命傷ではなく手負いですんだかもしれない。緊急手術で助かっていたかもしれない。

 沙良は身長も小さく胸を貫いていた。心臓をかすめ、動脈、静脈を砕いて背中へ貫通していた。そのための出血多量死、心肺停止が死因だ。

 俺の身長なら腹部あたりになっていたはず、腎臓辺りならひとつくらい失ってもたいしたことではない。ずっと健康体で生きてきた。沙良の身代わりになれるなら、ひとつの臓器くらい失ってもかまわない。

 愛する沙良との繋がりが深くなるってもんだ。

 

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