幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

伝奇ロマン

怪盗プラチナ仮面 33

   

 トロカデロ庭園のトランスヴァール共和国館で、吾輩は再び「マリアンヌ・コロージェ」と対峙した。訓練された殺し屋となった彼女は、もはや正面から立ち向かって勝てる相手ではない。

 ただ、吾輩には策があった。

 

 

トロカデロ庭園(その2)

 

 予告状を送って2日後、トランスヴァール共和国館は女王像の公開が当初予定より一週間遅れると発表した。遅れの理由は「準備が若干難航した」とかで、概ね想定の範囲内だった。

 公開初日、人混みに紛れて現物を確認した。高さ1メートル以上あるその像は古代ギリシャ風のローブを纏い、女王よりも女神とでも呼んだ方がよさそうな均整の取れた体格をしていた。

 その顔も、強いて誰かに似せたとは思えない。なぜそんなものをこしらえて公開する必要があったのかは、滅亡の危機にある国が万博に参加していることと同様、理解に苦しむところだった。

 とはいえ吾輩にしてみれば、純金として相応の値打ちがあるなら狙う理由にはなる。
 

 3日後の深夜、吾輩は人通りの絶えたトロカデロ庭園に入った。トランスヴァール館は3棟に分かれており、女王像は本館に展示されていた。本館の周囲に警官の姿はない。つまり、当局はプラチナ仮面を、最上級の敬意を払って迎えたというわけだろう。
 

 3階建ての本館屋根で、マレーネの幻像が吾輩を出迎えた。付近に本人の気配は感じ取れなかったが、屋根の上のマレーネは吾輩が予告状とともに送った衣装を身に付けていた。

 フランクフルトでコロージェの部下と戦った時と同じ、水色のドレスと白いパラソル。翌日の誕生日を前にそれらを着用して現れてくれたことを、吾輩は素直にうれしいと思い、彼女の義兄であるのを誇らしいとさえ思った。

「やあマレーネ! とてもよく似合うよ! サイズはぴったりのようだな」

 マレーネは何も答えずに見下ろしている。別れている間、数え切れないほど殺しの現場を重ねてきたのだ。そして、兄と呼んだ男を殺すのにもまったくためらいが無いらしいことは、いっさいの表情を消したその顔から了解できた。

「ベルリンかハンブルクでひと旗揚げる約束をしただろう? 神様は俺たちを見守ってくださるさ! さあおいで!」

 屋根の上へ手を差し伸べながらマレーネの「波動」を探ったが、見事なまでに反応がなかった。これほど自分を閉ざしてしまえるのは、訓練の成果でなければあり得ない。フランス当局はそれを実に周到に、抜け目なくやり遂げた。我々兄妹は屈服せざるを得なかったのだ。

 マレーネの唇が動いていた。

「遅いのよ。もうほんとに、笑っちゃうくらいに遅いの!」

 冷たい風が吹いた。続いて、とても5月とは思えない真冬のような突風が吹き抜け、花壇の花がみるみるうちに萎れて、樹木の若葉も枝から落ちていく。

 晩春の夜はマレーネの力によってたちどころに冬に舞い戻った。≪正帝≫をも貫いて、仮面の継承者である吾輩の脳裏にまで達する圧倒的な幻影を、マレーネは操るまでになっていた。実際、全身が凍るような寒気が体に沁み通ってきた。

「一緒に死ぬって言ったでしょ? マレーネ・リベロはもう死んだの。だからお前が生きてる理由もない」
「強がりはよせ。俺はお前と、お前の14歳の誕生日を……」
「楽にしてあげるわ!」
 

 

-伝奇ロマン
-, , ,

シリーズリンク

レビュー

この作品はいかがでしたか?
あなたの感想を送って、作家を応援しよう!

レビューを書く

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

おすすめ作品